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【院長ブログ】お盆の帰省で気づく親の"もの忘れ" ― 実家で30分でできる5つのチェックと、本人を傷つけない声かけ」

[2026.08.09]

お盆で久しぶりに実家へ帰られた方から、お盆明けの外来でよくこんなご相談をいただきます。「同じことを何度も聞かれて驚きました」「片づけが以前と違うんです」。

離れて暮らしていると、変化に気づけるのは一年に数回しかありません。その違和感は、たいてい的外れではありません。ただ、慌てて結論を出す必要もないのです。

この記事では、実家で30分あればできる観察のポイント、すぐに相談したほうがよいサイン、そしてご本人を傷つけずに受診につなげる声のかけ方を、愛媛県・松山市の相談窓口とあわせてご紹介します。

年に数回しか会わないからこそ、見えるものがあります

毎日一緒に暮らしているご家族は、実は変化に気づきにくいものです。少しずつ進む変化は日常に溶け込んでしまい、気づいたときにはかなり進んでいた、ということが起こります。

その点、半年ぶり、一年ぶりに会う方は「前との差」で見ることができます。診察室でも、遠方のご家族が持ってこられた情報が診断の決め手になることは珍しくありません。

では、どこからが「年のせい」ではないのか。厳密な線引きは検査をしないと難しいのですが、外来では次のような点を手がかりにしています。

加齢によるもの忘れは、体験の一部を忘れます。人の名前が出てこない、置き場所を忘れる、けれどヒントがあれば思い出せる。そしてご本人が「最近忘れっぽくてね」と困っておられます。

一方、受診を考えたい変化は、体験そのものが抜け落ちます。約束したこと自体を覚えていない、食べたこと自体を忘れる。指摘されても思い出せず、話のつじつまを合わせようとされる。そしてご本人はあまり困っておらず、むしろ指摘すると怒られる。半年から一年で、はっきり様子が変わったという場合も気になります。

そして、この境目にあたる軽度認知障害(MCI)という状態があります。検査では低下が確認できるけれど、生活はまだ自立している段階です。ここはご家族の観察だけでは判断がつきません。「怪しいけれど断定できない」のが普通だと思っていただいて構いません。

質問するのではなく、暮らしの痕跡を見てください

ご家族がやってしまいがちなのが、ご本人に「今日は何日?」「私の名前わかる?」と問いかけることです。気持ちはよくわかるのですが、これはおすすめしません。試されていると感じさせてしまい、その後の受診が一気に難しくなります。

代わりに、質問せず、暮らしの痕跡を見るほうが、はるかに正確です。台所や郵便物は嘘をつきません。5分ずつ、5か所を見てみてください。

実家で30分・5つの確認ポイント

  • 冷蔵庫と台所:同じ食材がいくつも入っていないか。奥に期限切れが溜まっていないか。鍋やヤカンに焦げ跡はないか。料理の品数が減っていないか
  • 薬と郵便物:薬が大量に余っていないか、お薬手帳が何冊もないか。未開封の請求書や督促状が溜まっていないか。通販で同じ商品を重複して買っていないか
  • 家の中と身なり:片づけの水準、季節に合った服装かどうか、入浴や着替えの頻度
  • 会話と段取り:短い時間に同じ話を繰り返さないか。お茶を出す、支払いを計算するといった段取りに手間取っていないか。テレビの音量が以前より大きくないか(難聴は認知機能にも影響します)
  • 体と動き:歩幅が狭くなっていないか、方向転換でふらつかないか。手のふるえ、表情の乏しさ、体重の減少。夜中の大きな寝言や叫び声

これは医学的な診断基準ではありません。いくつ当てはまれば認知症、という数え方もできません。あくまで「気にかけるための目安」です。より詳しいものとしては、公益社団法人 認知症の人と家族の会が作成した早期発見のめやすも参考になります。

そのうえでお願いしたいのが、気づいたことを日付つきでスマホにメモしておくことです。外来でお話を伺える時間は限られています。「今年の春頃から同じ話が増えた」「6月に郵便が溜まっていた」という記録があるだけで、診察の精度が変わります。ご家族間で共有しておくと、後の話し合いも進めやすくなります。

「年のせい」で片づけたくない、いちばんの理由

私が地域の方に知っておいていただきたいのは、もの忘れの背景に、治療で改善しうる病気が隠れていることがある、という点です。

代表的なのが慢性硬膜下血腫です。数か月前の転倒や頭部打撲がきっかけで、脳の表面にじわじわ血が溜まる病気で、頭部CTで見つかります。手術で改善が期待できます。もうひとつが特発性正常圧水頭症で、歩きにくさ、もの忘れ、尿失禁がそろうのが特徴です。この二つは、外来で「年のせいだと思っていた」と言われることがとても多い病気です。

ほかにも甲状腺機能の低下、ビタミンB12の不足、うつ状態、お薬の影響などが関係していることがあります。ここで大切なのは、思い当たるお薬があっても、自己判断で中止したり減らしたりしないでくださいということです。かえって体調を崩すことがあります。必ず医師か薬剤師にご相談ください。

なお、こうした治療で改善する病態は全体からみれば多数派ではありません。「多くは治る」という話ではないのです。ただ、見逃すと戻りにくくなるものが含まれているので、一度確認しておく価値がある。そういう位置づけだとお考えください。

診断がついた場合も、それは終わりではありません。2024年12月に閣議決定された国の認知症施策推進基本計画では、認知症になってからも、一人ひとりにできることや、やりたいことがあるという「新しい認知症観」が掲げられています。診断は、支援の入口です。介護保険の申請、生活の整え方、ご本人の希望をご本人の言葉で残しておくこと。これらは早い段階でしかできません。

治療について、いま分かっていること

中核となる症状に対しては、進行を緩やかにすることを目指すお薬があります。病気を治すものではなく、効果には個人差があります。

近年使えるようになった抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブなど)は、アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度の認知症に限って検討される治療です。MMSEやCDRといった検査の基準を満たし、アミロイドPETや脳脊髄液検査で原因物質の蓄積が確認されていることが必要で、投与できる施設も限られています。進行を抑えることを目指す治療であり、脳のむくみや微小出血(ARIA)といった副作用の監視のため、定期的なMRIが欠かせません。当院では適応の見極めと専門施設へのご紹介、そして他院で導入された後の継続的な診療を担当しています。

叱らない、騙さない。この二つだけ守りましょう

外来で多いご家族からのご相談は、「本人のプライドを傷つけたくないので、病名は伝えずに薬だけ飲ませたい」というものです。お気持ちはとてもよくわかります。ただ、正直に申し上げると、これは難しいのです。何のための薬か説明できないまま服薬を続けていただくことはできませんし、ご本人が納得しないまま始めた治療は、たいてい長続きしません。厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでも、ご本人の意思を尊重するプロセスが前提とされています。お伝えする言葉を選ぶことはできます。伝えないという選択は、私にはおすすめできません。

もうひとつ、ご家族がつい、やってしまわれるのが「叱ってしまう」ことです。同じ話を三度目に聞いたとき、「さっきも言ったよ」と返してしまう。これは本当によくあることで、責めるつもりはまったくありません。ただ、訂正しても記憶は戻らず、自尊心だけが削れていきます。初めて聞いたように受ける、が結果的にいちばん楽です。

声のかけ方も、少し変えるだけで通りやすくなります。「認知症の検査に行こう」ではなく「血圧とふらつきを一度みてもらおう、私も気になるから」。「なんでできないの」ではなく「一緒にやろうか」。主語を「お父さんのため」から「私が心配だから付き合って」に変えるのも有効です。

受診につなげる道筋としては、かかりつけの先生から勧めていただくのがいちばんスムーズです。受診前にご家族から一報を入れておくと、話を切り出してもらいやすくなります。健診や持病の定期受診に相乗りする形も現実的です。

ただし、騙して連れて行くことだけは避けてください。一度はうまくいっても、その後何年も続く通院と介護の土台になる信頼を失います。目的をすべて言う必要はありませんが、嘘はつかない。この線引きは守っていただきたいと思います。

どこに相談すればよいか ― 松山市の窓口と、当院でできること

ご本人が受診を嫌がっている段階でも、ご家族だけで相談できる窓口はあります。お住まいの地区の地域包括支援センターは、介護や認知症の総合相談窓口で、無料でご相談いただけます。松山市には認知症初期集中支援チームもあり、市の案内でも「受診を拒否している」「症状が強くて介護に困っている」といったケースが対象として挙げられています。医師や保健師などの専門職が訪問し、医療や介護につなぐ支援をしてくれます。

同じ立場のご家族に話を聞いてほしいときは、公益社団法人 認知症の人と家族の会 愛媛県支部の電話相談もあります。

当院、うめもとクリニックは松山市南梅本町の内科・脳神経内科・リハビリテーション科のクリニックです。もの忘れ外来では、詳しい問診と神経学的な診察、神経心理検査、血液検査、院内の頭部CTで原因を確認していきます。MRIが必要な場合は連携する施設にご依頼します。初診で認知機能の評価まで行う場合、1〜2時間ほどお時間をいただきますので、ウェブ予約またはお電話でのご予約をお願いしています。お薬手帳は必ずお持ちください。

ご本人がどうしても受診を嫌がるという段階でも、ご家族からのご相談を承っています。ご本人がご来院できず、ご家族から医師が詳しくお話を伺う必要がある場合は、予約制のご家族相談(自費・保険適用外)をご案内しています。ご本人を診察していない以上、診断や処方はできませんが、これからどう進めるかを一緒に整理することはできます。地域包括支援センターに先にご相談いただいても、もちろん構いません。

診断後の生活を支える体制として、当院ではリハビリテーション科や訪問リハビリテーションもご用意しています。歩きにくさやふらつきが気になる場合は、あわせてご相談ください。

まとめ

お盆のあいだに結論を出す必要はありません。気づいたことを日付つきでメモする、ご家族で共有する、地域包括支援センターの電話番号を控えておくだけでも結構です。

「認知症かもしれない」と迷いながら過ごしておられるご家族の方は、思っている以上にたくさんいらっしゃいますし、ご家族の違和感は、たいてい何かを捉えています。そこから先は、ひとりで抱え込まず、一緒に考えていきましょう。

免責事項

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたもので、個々の診断・治療方針を示すものではありません。ご紹介したチェック項目は医学的な診断基準ではなく、当てはまる数によって認知症かどうかが決まるものではありません。相談窓口の連絡先や受付時間は変更される場合がありますので、ご利用の際は各機関の最新情報をご確認ください。

引用文献・参考資料

  1. 厚生労働省.認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計.2024.https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
  2. 厚生労働省.認知症施策推進基本計画(2024年12月3日閣議決定).https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf
  3. 厚生労働省.認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
  4. 厚生労働省.最適使用推進ガイドライン レカネマブ(遺伝子組換え).https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001178607.pdf
  5. 日本神経学会 監修.認知症疾患診療ガイドライン2026.医学書院;2026.
  6. 松山市.認知症初期集中支援チーム.https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kurashi/kaigohoken/koureisyashien/ninchisho/syokisyuutyuu.html
  7. 公益社団法人 認知症の人と家族の会.家族がつくった「認知症」早期発見のめやす.https://www.alzheimer.or.jp/?page_id=3107
  8. 愛媛県.認知症の人と家族の会(愛媛県支部).https://www.pref.ehime.jp/page/11693.html
  9. Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024.
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