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【院長ブログ】がん予防の最新情報~NHKでも特集された『リスクを減らす生活習慣』を脳神経内科視点で解説~

[2025.09.28]
朝や夕の気温が低下し秋の深まりを感じる季節となりました。最近、患者さんやご家族から「がんの予防はできるのでしょうか」「家族にがんの既往があるので不安です」といったお声を伺いしました。先日、NHK「きょうの健康」でも特集された最新のがん予防について、脳神経内科医の視点も交えながら、科学的根拠に基づいた予防法を詳しく解説いたします。
 

日本人の2人に1人ががんになる時代~最新統計と脳神経内科医としての視点~

国立がん研究センターの最新統計によると、日本人が生涯のうちにがんと診断される確率は、男性で65.0%、女性で51.2%となっており、まさに2人に1人ががんになる時代を迎えています。2025年のがん罹患者数は約101万人と予測されており、高齢化社会の進展とともにその数は増加傾向にあります。

実は、脳神経疾患とがんには共通する生活習慣病的な要因が数多く存在します。喫煙は脳梗塞のリスクを高めるだけでなく、肺がんをはじめとする多くのがんの原因となります。また、糖尿病や高血圧といった生活習慣病は、血管性認知症のリスクを高めると同時に、がんの発生にも関与することが明らかになっています。

がんの約60%は生活習慣や環境要因によるものとされており、適切な予防策により、がんのリスクを大幅に減らすことが可能なのです。

 

NHK「きょうの健康」でも特集された科学的根拠に基づくがん予防法(5+1)

2025年9月にNHK「きょうの健康」で放送されたがん予防の特集では、国立がん研究センターが提唱する「日本人のためのがん予防法(5+1)」が詳しく紹介されました。この予防法は、約140万人を対象とした大規模な疫学研究に基づいており、5つの生活習慣要因と1つの感染要因から構成されています。

5つの生活習慣要因は、①禁煙、②節酒、③食生活の改善、④身体活動の増加、⑤適正体重の維持です。これらすべてを実践することで、男性では43%、女性では37%のがんリスク低下が期待できるという驚くべき結果が示されています。

特に注目すべきは、これらの要因が相乗効果を発揮することです。例えば、禁煙だけでも肺がんリスクは大幅に低下しますが、同時に適度な運動を行うことで、免疫機能の向上により、さらなる予防効果が期待できます。また、6つ目の「感染」要因として、肝炎ウイルス、ヘリコバクター・ピロリ菌、ヒトパピローマウイルス(HPV)などへの対策が重要です。

 

がんと脳神経疾患の意外な共通リスク~生活習慣の改善で両方を予防する~

この「がん予防法(5+1)」は、以前から認知症や脳卒中などの脳神経疾患の予防にも効果的であることが知られています。なぜこれらの生活習慣が、一見異なる病気である「がん」の予防にも効果があるのでしょうか。その答えは、両者に共通するメカニズムである「慢性炎症」にあると考えられています。慢性炎症とは、体内で長期間続く軽度の炎症反応のことで、風邪を引いた時のような急性の炎症とは異なり、自覚症状がないまま静かに持続します。この慢性炎症が、脳の神経細胞を徐々に傷つけて認知症やパーキンソン病の進行を促す他にも、全身の細胞のDNAにダメージを与えてがん化を促進することが分かってきました。

例えば、喫煙の害を考えてみましょう。ニコチンやタールは血管の内皮細胞を直接障害し、血管に慢性的な炎症を引き起こします。これが脳血管で起これば脳梗塞や脳出血のリスクが高まり、全身で起これば細胞の遺伝子に酸化ストレスを与え、がん抑制遺伝子の機能を低下させます。

糖尿病による慢性的な高血糖状態も同様です。高血糖は血管壁に糖化反応を起こし、慢性炎症を引き起こします。脳では微小血管の障害により血管性認知症の原因となり、全身では炎症性物質やインスリン様成長因子の分泌を増加させ、がん細胞の増殖を促進します。血糖値の適切な管理は、慢性炎症を抑制し、脳とがんの両方を守る重要な戦略なのです。

 

実践的ながん予防生活習慣~今日から始められる具体的な取り組み~

日本対がん協会が提唱する「がんを防ぐための新12か条」を基に、脳神経内科医としての視点を加えた実践的な予防法をご紹介します。これらは今日からすぐに始められる具体的な取り組みです。

食生活の改善では、まず減塩を心がけましょう。男性は1日7.5g未満、女性は6.5g未満が目標です。塩分の摂りすぎは胃がんのリスクを高めるだけでなく、高血圧を引き起こし脳血管疾患の原因となります。野菜と果物は1日400g以上(野菜350g、果物50g以上)を目標とし、抗酸化作用により活性酸素を除去します。

身体活動については、18-64歳では1日60分の歩行相当の活動と、週60分の息がはずむ程度の運動を推奨します。65歳以上では強度を問わず1日40分の身体活動が目標です。運動はがん細胞の増殖を抑制する免疫機能を活性化し、同時に脳の血流を改善して認知機能を維持します。

適正体重の維持では、BMI値を男性21-27、女性21-25の範囲に保ちましょう。肥満は炎症性サイトカインの分泌を増加させ、がんリスクを高めます。また、適正体重は脳血管の健康維持にも重要です。

感染対策として、肝炎ウイルス検査を受け、ピロリ菌の除菌治療を検討し、HPVワクチンの接種を適切な年齢で受けることが重要です。これらの感染症は、それぞれ肝細胞がん、胃がん、子宮頸がんの主要な原因となります。

最後に、質の良い睡眠を心がけましょう。睡眠不足は免疫機能を低下させ、がんリスクを高めます。また、睡眠中に脳では老廃物の除去が行われるため、認知症予防にも不可欠です。1日7-8時間の睡眠を目標としましょう。

 

がん検診の重要性と当院での取り組み~早期発見・早期治療への道筋~

予防と並んで重要なのが早期発見です。国が推奨する5つのがん検診(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん)は、死亡率減少効果が科学的に証明されています。これらの検診により、がんによる死亡リスクを20-60%減少させることができます。

当院では、生活習慣病の管理において、血糖値、血圧、脂質異常症などの改善を図りながら、同時にがんリスク評価も行っています。例えば、糖尿病患者さんには膵臓がんや肝臓がんのリスクが高いことをお伝えし、定期的な腹部超音波検査やCT検査の必要性をご説明しています。また、脳血管疾患の既往がある患者さんは、全身の血管系に問題を抱えている可能性が高く、がんリスクも上昇することが知られています。

また、がんリスク要因の早期発見にも力を入れています。感染症が原因となるがんは日本人のがん全体の約20%を占めており、これらは検査により早期発見・治療が可能です。特にピロリ菌感染は日本人の約半数が保有しているとされ、胃がんの主要な原因となります。当院では血液検査や便中抗原検査でピロリ菌感染の有無を確認(自費検査)し、陽性の場合は除菌治療をご提案しております。

肝機能異常がある方はB型・C型肝炎ウイルス検査についても積極的にお勧めしています。これらのウイルス感染は自覚症状がないまま進行し、肝硬変から肝細胞がんへと発展する可能性があります。まだ一度も検査を受けたことのない方には、ぜひ一度受けていただくようお勧めしています。

 

まとめ

がん予防と脳の健康維持は表裏一体の関係にあることを日々実感しています。慢性炎症を抑制する生活習慣は、がんリスクを下げるだけでなく、認知症や脳血管疾患の予防にもつながります。健康寿命を延ばし、質の高い人生を送るために、今日から一歩ずつ取り組んでいただければと思います。ご不明な点やご心配なことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

 

引用文献
  1. 国立がん研究センター. 科学的根拠に基づくがん予防. がん情報サービス, 2025年8月更新.
  2. Inoue M, et al. Burden of cancer attributable to modifiable factors in Japan in 2015. Glob Health Med. 2022; 4(1): 26-36.
  3. Sasazuki S, et al. Combined impact of five lifestyle factors and subsequent risk of cancer: the Japan Public Health Center Study. Prev Med. 2012; 54(2): 112-6.
  4. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版). 2020.
  5. 日本対がん協会. がんを防ぐための新12か条. 2024年8月更新.
  6. 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動基準2013. 2013.
  7. NHK. きょうの健康「がん予防の最新情報 リスクを減らす生活習慣とは?」. 2025年9月放送.
  8. World Cancer Research Fund International. Diet, nutrition, physical activity and cancer: a global perspective. 2018.
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