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【院長ブログ】パーキンソン病の見えない資産、運動予備能

[2026.01.11]

クリニックでも新しい年が始まり、慌ただしい日々が戻ってきました。皆様、お正月はゆっくりお過ごしになられたでしょうか。

今回は、パーキンソン病と共に歩む患者さんにとって、非常に勇気づけられる最新の知見をご紹介したいと思います。それは「運動予備能」という考え方です。パーキンソン病の方にぜひ知っておいていただきたい内容ですので、ご紹介いたします。

パーキンソン病と運動予備能

パーキンソン病は、脳の中のドパミンという物質を作る神経細胞が少しずつ減ってしまう病気です。しかし、同じくらいの神経の減り具合であっても、症状がほとんど出ない方もいれば、動きにくさを強く感じる方もいらっしゃいます。 脳神経内科でパーキンソン病の患者さんを診療していると、本当に様々な程度の症状があることに気がつきます。

この違いを生むのが「Motor Reserve(モーターリザーブ)」、日本語では「運動予備能」と呼ばれるものです。簡単に言えば、これは「脳の貯金」のようなものです。たとえ神経細胞が減ってきても、脳のネットワークが柔軟に対応し、機能を補うことで、症状が出るのを防ぐ能力とも言えます。この「貯金」がたくさんあればあるほど、パーキンソン病の進行の影響を受けにくく、活動的な生活を続けられる期間が長くなるのです。

では、この運動予備能はどうやって増やし、守ればよいのでしょうか?

運動予備能に関する最新研究

この研究は、まだお薬による治療を始めていない初期のパーキンソン病患者さん566名を対象に行われました。大規模で信頼性の高い研究と思います。この研究では、脳のドパミントランスポーター(DAT)画像という検査を用いて、脳内のドパミン神経の状態と、実際の運動症状の程度を詳しく分析しました。その結果、以下の非常に重要な事実が明らかになりました。

身体活動が「脳の運動予備能」を守る

最も注目すべき発見は、「定期的な身体活動」を行っている方ほど、運動予備能が高いということです。つまり、運動習慣がある方は、パーキンソン病の進行に伴い脳の神経細胞が減っていても、その影響を脳がうまくカバーして、症状が出にくい状態を維持できていると言えます。

薬物療法と運動の相乗効果

さらに、診断された後の経過を追跡すると、適切な「お薬による治療」と「継続的な運動」の両方を行っている方々は、診断初期の数年間において 運動予備能の低下が緩やかであることが分かりました。お薬だけでなく、継続的な運動習慣を行うことが有効という訳です。

初期の頑張りが将来を決める

そして何より重要なのが、「診断後、早期の段階で運動予備能を高く保つことが、その後の長期的な経過を良くする」という点です。最初の数年間にしっかりと運動(貯金)を守れた方は、4年後、あるいはそれ以降も、運動機能が良い状態で保たれる可能性が高いことが示されました。

運動予備能を高めるために、私たちが今できること

この研究結果は、パーキンソン病と診断されたら「運命が決まった」という話ではなく、「行動で、未来を変えられる可能性がある」ということを示しています。運動予備能は生まれつきのものだけではありません。日々の生活習慣によって、維持し、強化することができます。具体的に、今年の目標として取り入れていただきたいことをいくつか提案させていただきます。

「動くこと」を生活の一部に

研究では、身体活動が症状の改善に直接つながることが示されています。これは、運動が単に筋肉を鍛えるだけでなく、脳の回路を強化し、予備能を高めているからです。

激しいスポーツである必要はありません。街を散歩する、庭の手入れをする、ラジオ体操をする、あるいは椅子に座ったままストレッチをするだけでも構いません。「昨日よりも少し多く動く」ことを意識してみてください。寒い時期ですので、室内での足踏み運動などもおすすめです。

お薬を「味方」につける

「薬はなるべく飲みたくない」と考える患者さんもいらっしゃいます。そのお気持ちはよく分かります。しかし、今回の研究でも示されたように、適切な時期に適切な治療を開始し、維持することは、脳の予備能を守るために重要です。お薬は症状を抑えるだけでなく、脳が良い状態で活動し続けるためのサポート役でもあります。主治医とよく相談し、納得した上で治療を継続しましょう。

「継続」こそが力なり

運動予備能の維持には「持続的な」活動が鍵となります。三日坊主になっても四日目にまた始めましょう。細く長く続けることが、大切です。

当院の訪問リハビリテーション

ここまで運動の重要性についてお話ししてまいりましたが、「一人で運動を続ける自信がない」「どんな運動をすればよいか分からない」「通院が難しい」とお悩みの方もいらっしゃるかと思います。

当院では、そのような患者さんやご家族のために、訪問リハビリテーションを提供しております。理学療法士や作業療法士がご自宅にお伺いし、お一人おひとりの状態に合わせたリハビリテーションを行います。

ご自宅だからこそできる、生活に密着したリハビリ

訪問リハビリテーションの大きな利点は、実際の生活環境の中で訓練ができることです。ご自宅の廊下を歩く練習、階段の上り下り、トイレやお風呂での動作など、日常生活で困っていることを、その場で一緒に改善していきます。

パーキンソン病の方に多い「すくみ足」への対応や、転倒予防のための環境整備のアドバイス、姿勢の改善、バランス訓練なども行います。また、ご家族への介助方法の指導も大切にしております。

運動予備能を高めるためのプログラム

今回ご紹介した研究結果を踏まえ、当院の訪問リハビリテーションでは、運動予備能を高めることを意識したプログラムを提供しています。継続的な運動習慣を身につけていただけるよう、理学療法士が丁寧にサポートいたします。

「病院に行くのは大変だけれど、家なら安心して運動できる」という患者さんの声を多くいただいております。まずはお気軽にご相談ください。

 

まとめ

今回の研究は、私たち医療者にとっても、患者さんにとっても、大きな指針となるものです。「病気だからできなくなった、安静にしていなければならない」のではなく、「病気だからこそ、積極的に動いて脳の予備能を高める」という発想の転換が大切です。

もちろん、お体の状態は一人ひとり異なります。無理は禁物です。膝や腰が痛い方、バランスに不安がある方は、どのような運動が適しているか、受診時にぜひご相談ください。

本年が皆様にとって、心穏やかで、そして活動的な一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

参考文献
Tsukita K, et al. Temporal Dynamics and Cross-Sectional and Longitudinal Factors Associated With Motor Reserve and Outcome in Patients With Parkinson Disease. Neurology. 2026 Jan 27;106(2):e214475. doi: 10.1212/WNL.0000000000214475.

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