【院長ブログ】年末年始の帰省で気づきたい家族の認知症サイン~受診につなげるコツ~
12月も下旬に入り、クリニック周辺でも年の瀬ならではの慌ただしさが感じられる頃となりました。この時期、離れて暮らしているご両親やご家族のもとへ帰省される方も多いのではないでしょうか。久しぶりに再開した家族と話をしているときに、「あれ?以前と少し違う気がする……」と感じることはありませんか? 年に数回しか会わないからこそ、小さな変化に気づくことがあります。今回は、帰省中だからこそ気づける認知症のサインと、診察室で多くのご家族から相談を受ける「受診への誘い方」のコツについて、具体的にお話ししたいと思います。
帰省時だからこそ気づける認知症のサイン
一緒に過ごす時間が長い年末年始は、以下のポイントをさりげなくチェックしてみてください。
生活環境の変化
- 冷蔵庫の中に、同じ食材がいくつも入っている(卵が何パックもある、など)
- 賞味期限切れの食品が目立つようになった
- 以前はきれい好きだったのに、部屋が散らかっていたり、ほこりが溜まっていたりする
- 郵便受けに新聞や請求書が溜まったままになっている
特に冷蔵庫の中身は、記憶力や判断力の低下が表れやすい場所です。「安いから買っておいた」と言いつつ、管理しきれていない様子があれば注意が必要です。
日常会話での気づき
- さっき話したことを忘れ、同じ質問を何度も繰り返す
- 「あれ」「それ」などの指示語が増え、物の名前が出てこない
- テレビドラマの筋書きが理解できず、興味を失っている
身だしなみ・衛生面
- 季節外れの薄着や厚着をしている
- 同じ服を何日も着続けている(洗濯物が減っている)
- お風呂に入るのを嫌がるようになり、体臭が気になる
おしゃれだったお母さんが化粧をしなくなったり、髪がボサボサだったりするのは、意欲の低下や認知機能の衰えのサインかもしれません。
料理・食事の変化
- 得意料理を作らなくなった、または味が極端に変わった(濃すぎる、薄すぎる)
- 献立を考えるのが面倒になり、出来合いの惣菜やインスタント食品ばかり食べている
- 鍋を焦がすことが増えた
金銭管理
- 通帳や印鑑の置き場所がわからなくなり、探し回っている
- ATMの操作ができなくなった
- 小銭の計算が面倒で、お札ばかり出して財布が小銭でパンパンになっている
- 高額な健康食品や布団などを不自然に購入している
社会活動の変化
- 大好きだった趣味(囲碁、手芸、ゴルフなど)をやめてしまった
- 外出をおっくうがり、家に閉じこもりがちになった
- 近所付き合いが減り、友人と会うのを避けている
運転・外出時の様子
- 車のボディに新しい擦り傷やへこみが増えている
- 慣れているはずの道で迷ったり、遠回りをしたりする
- 運転操作が荒くなった、または極端に慎重すぎる
特に車の運転については、ご本人だけでなく他者を巻き込む事故につながる恐れがあるため、早めの対応が重要です。
認知症を疑う家族をうまく受診に繋げるコツ
「認知症かもしれない」と思ったとき、多くの方が「早く病院に連れて行かなければ」と焦ります。しかし、真正面から「認知症の検査に行こう」と伝えて、素直に「はい、行きます」と言う方は稀です。
なぜ受診を拒むのか?~本人の心理を理解する
認知機能低下を伴う方が病院の受診を拒否する理由として以下のような理由があります。
- 「自分はまだしっかりしている」というプライドがある
- 「認知症と診断されたら人生終わりだ」という強い恐怖心
- 「家族に迷惑をかけたくない」「捨てられるかもしれない」という不安
- 「病院に行くと何か恐ろしい検査をされるのではないか」という警戒心
- そもそも自分では「忘れていること」自体を忘れているため、問題意識がない(病識の欠如)
大切なのは、ご本人の不安やプライドに寄り添い、決して責めないことです。
受診成功のための7つのコツ
これまでの診療経験から、よく行われる「受診への誘い方」をご紹介します。
コツ① 「認知症」という言葉を使わない
「物忘れ外来」や「認知症検査」という言葉を使わず、別の理由を見つけて誘いましょう。
| NG例(言わない方がよい) | OK例(おすすめの誘い方) |
|---|---|
| 「最近ボケてきたから検査に行こう」 | 「最近疲れやすそうだから、健康診断のつもりで診てもらおう」 |
| 「同じことばかり言うから病院へ行って」 | 「私が心配だから、安心させると思って付き合ってくれない?」 |
| 「認知症の検査を予約したから」 | 「脳の健康チェック、私も一緒に受けるから行ってみない?」 |
コツ② かかりつけ医・内科からスタート
いきなり精神科や専門病院に行くのは抵抗が強いものです。「いつもの血圧の薬をもらいに行くついで」や「ちょっと風邪気味だから」という理由なら、心理的な壁が低くなります。
かかりつけの内科で相談できるようなら、認知症専門の特別な場所に行くという緊張感を持たずに、自然に受診していただけます。「内科のついでに、先生に頭のことも少し相談してみようか」という流れがスムーズです。
コツ③ 「家族の健康診断」に巻き込む
「自分だけ病院に行かされる」となると、疎外感を感じて頑なになります。そうではなく、「家族みんなで健康チェックをするイベント」にしてしまうのです。
「私も最近、頭痛がするから診てもらうの。一人だと心細いから、一緒に健康診断を受けてくれない?」と、「付き添いをお願いする」形をとるのも効果的です。
コツ④ 信頼できる第三者の力を借りる
家族の言うことには反発しても、第三者の言葉なら素直に聞くことがあります。特に、長年診てもらっている「かかりつけ医」や、信頼している「友人・知人」、あるいは「孫」からの言葉は強力です。
事前にかかりつけの先生に相談しておき、診察の際に「○○さん、年齢的にも一度脳のチェックをしておくと安心ですよ」と先生から勧めてもらうのも良い方法です。
コツ⑤ タイミングを見計らう
受診の話を切り出すタイミングも重要です。
- 好ましいタイミング: ご本人が「あれ?名前が出てこない」「約束を忘れてしまった」と失敗して、少し不安そうにしている直後。「最近、私も忘れっぽくて。一緒に診てもらおうか」と共感しながら誘います。
- 避けるべきタイミング: 喧嘩をした後や、ご本人の機嫌が悪い時。また、夕方以降は「夕暮れ症候群」といって不安が強まりやすい時間帯なので、落ち着いている午前中などがおすすめです。
コツ⑥ 段階的アプローチ~焦らず時間をかける
一度の説得で決めようとせず、段階を踏んでください。
- 「最近、芸能人の○○さんも検査受けたらしいね」と世間話をする。
- 「早期発見すれば、薬で進行を遅らせて長く元気に過ごせるんだって」とメリットを伝える。
- 「今度帰ったとき、ついでに病院へ行ってみようか」と軽く提案する。
コツ⑦ 「安心するため」というポジティブな枠組み
「病気を見つけるため」ではなく、「病気がないことを確認して安心するため」に行こう、と伝えてみてください。「何もなければそれでいいし、万が一何かあっても、早くわかれば対策ができるから」というポジティブなメッセージが、ご本人の背中を押します。
認知症の初診時に持っていくと良いもの
いざ受診となった際、限られた診察時間で正確な情報を伝えるために、以下の準備をしておくとスムーズです。
- マイナカード、お薬手帳(現在飲んでいる薬の情報は必須です)
- 「気になる症状メモ」:いつ頃から、どんな変化があったか、具体的なエピソードを時系列で書いたもの。
- ご本人の生活歴:最終学歴、職歴、趣味、性格など(診断やケアのヒントになります)。
ご本人の前では話しにくい内容は、事前にメモを受付に渡していただくか、事前に電話でお伝えいただければ配慮いたします。
うめもとクリニックでの認知症診療の流れ
当院では、認知症を「怖い病気」として扱うのではなく、「現在の生活の質を守るために大切な情報の一部」として扱い、どのように生活をしていけばよいか、を一緒に考えます。
- 問診・診察: ご本人のお話をじっくり伺いながら、全身の状態をチェックします。
- 認知機能検査: 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)など、負担の少ない検査を行います。
- 画像検査: 必要に応じて提携医療機関でのMRI検査・必要に応じて脳血流検査などを手配し、脳の萎縮や脳梗塞の有無を確認します。
- 治療とケア: 診断がついた場合は、進行を遅らせるお薬の処方だけでなく、ご家族への介護アドバイスや、介護保険申請のサポート、地域のケアマネジャーとの連携も行います。
まとめ
年末年始だからころできる認知症の発見方法、受診を成功させるコツについてお話しました。知症は、早期発見・早期対応がご本人とご家族の未来を大きく左右します。早く気づけば、お薬で進行を緩やかにしたり、生活環境を整えてトラブルを防いだりすることができます。「何か変だな?」と思ったら、まずは一度ご相談ください。年末年始の帰省が、ご家族の健康と笑顔を守る第一歩になることを願っています。
参考資料
- 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/ - 厚生労働省「認知症施策推進大綱」(令和元年6月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00002.html - 厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス 認知症」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html - 認知症介護研究・研修センター「認知症の基礎知識」
https://www.dcnet.gr.jp/
