【院長ブログ】年齢が高くても、もの忘れが出てきても。パーキンソン病のリハビリ「LSVT BIG」はあきらめなくていい理由
外来でパーキンソン病のお話をしていると、ご本人やご家族から「この歳からリハビリをしても、もう遅いのでは」「最近、少しもの忘れも出てきて、ついていけるか心配で」というご相談をよくいただきます。パーキンソン病によって動きが小さくなる、歩きにくい、声が小さくなる。こうした変化に、年齢や記憶の不安が重なると、リハビリそのものをためらってしまう方が少なくありません。気持ちはよくわかります。ただ、最近の研究では、年齢や軽い認知機能の低下があっても効果が期待できる可能性が示されつつあります。この記事では、LSVT BIGというリハビリの考え方と、年齢・もの忘れとの関係について、今わかっていることを整理してお伝えします。
LSVT BIGとは ― 「大きく動く」を取り戻すリハビリ
パーキンソン病では、脳のドパミンという物質が減ることで、体の動きがだんだん小さく、ゆっくりになっていきます。歩幅が狭くなる、表情が乏しくなる、字が小さくなる。こうした変化は、ご本人がなかなか自分では気づきにくいという特徴があります。
LSVT BIGは、こうした「動きの小ささ」に対して、あえて大きく動く練習を繰り返すことで、本来の動きの感覚を取り戻していくリハビリです。アメリカで開発され、世界各国で行われている方法で、その有効性については質の高い研究も積み重ねられています。当院の別の記事で、開発の背景や脳のしくみについて詳しくご紹介していますので、仕組みを深く知りたい方はそちらもあわせてご覧ください。
ここで一つ知っておいていただきたいのは、自分では「ふつうに動いている」つもりでも、はたから見ると動きが小さくなっていることがある、という点です。診察室でも、ご家族から「最近、歩き方が変わった」と指摘されて初めて気づかれる方が多くいらっしゃいます。LSVT BIGは、この「ずれ」を整え直していくリハビリだとイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。
「もう歳だから」「もの忘れもあるから」とためらう前に
リハビリを前にして、多くの方が気にされるのが年齢です。「若い人なら効くのだろうけれど、自分はもう」という声を、本当によく聞きます。年齢のせいと片づけたくなる気持ちは、決して特別なものではありません。
ただ、ここは少し見方を変えてみてもよいところだと思います。本年発表された国内でのLSVT研究では、65歳以上の方と65歳未満の方を比べたとき、どちらのグループでも運動症状や歩く速さ、日常生活の動作、生活の質が改善し、その効果に年齢による差はみられなかったと報告されています。つまり「年齢にかかわらず、同じように改善が期待できる可能性がある」ということです。もう一つ、ご家族が気にされやすいのが「もの忘れ」、つまり軽度認知障害との関係です。これについても、同じ研究グループの調査で、軽い認知機能の低下があっても運動症状・歩行速度・日常生活動作の改善が得られうることが示唆されています。
もちろん、これらは規模の小さい、過去のデータをさかのぼって調べた研究に基づく「示唆」であり、誰にでも必ず同じ効果が出ると証明されたものではありません。それでも、「歳だから」「もの忘れがあるから」という理由だけで最初からあきらめてしまうのは、少しもったいないと感じています。実際にできるかどうかは、年齢や記憶だけでなく、その方の状態を診たうえで一緒に判断していくものです。
こんな変化に気づいたら ― ご家族の視点も大切に
パーキンソン病の動きの変化は、ご本人より周りの方が先に気づくことがよくあります。次のような様子に心当たりがある場合は、一度ご相談いただくタイミングかもしれません。
- 歩幅が小さくなり、すり足のようになってきた
- 動き出しに時間がかかる、最初の一歩が出にくい
- 表情が乏しくなった、声が小さくなったと言われる
- 文字が以前より小さくなってきた
- 向きを変えるとき、寝返りをするときに動きにくそう
これらは、年齢のせいに見えて、実はパーキンソン病やよく似た病気のサインであることがあります。逆に、すべてが病気とは限りません。だからこそ、自己判断で決めつけず、気になる変化が続くようなら一度確認しておくと安心です。セルフチェックはあくまで受診のきっかけであって、これだけで診断ができるものではない、という点はご理解いただければと思います。
ご家族が「最近ちょっと変わった気がする」と感じたその感覚は、診療の場でとても役立つ大切な情報です。受診の際は、いつ頃からどんな変化があったかを、メモ程度でもお持ちいただけると助かります。
LSVT BIGの実際 ― どんなふうに進むのか
LSVT BIGには、世界各地の研究で共通して使われている標準的な進め方があります。1回約60分、週4日、4週間でのべ16回、認定を受けた療法士が一対一で行う、というものです。週4回と聞くと「大変そう」と感じられるかもしれませんが、短期間に集中して取り組むことで、体に動きの感覚を覚え込ませる狙いがあります。バランスや歩行に不安がある方には、手すりを使ったり、座ったり寝た姿勢で行ったりと、その方の状態に合わせて難易度を調整できるのも特徴です。
研究では、こうした取り組みのあとに歩く速さや歩幅が改善する傾向が、繰り返し報告されています。たとえば日本のある研究では、リハビリ後に歩行速度や歩幅が増え、その背景として股関節を動かせる範囲が広がったことが関係していた、と報告されています。「大きく動く」練習が、結果として歩きやすさにつながっていく、というイメージです。
一方で、効果の現れ方には個人差があります。先ほどの年齢別の研究では生活の質の改善もみられましたが、他の研究では生活の質に明確な差が出なかったという報告もあり、この点はまだ一致していません。また、薬物療法とリハビリは、どちらか一方ではなく、組み合わせて考えていくものです。お薬の調整やリハビリの開始時期については、自己判断で変えず、必ず主治医とご相談ください。
なお、こうしたリハビリは、症状が比較的軽い段階から中等度の時期に始めると効果が出やすいとされています。早めに相談しておくことには意味があります。
受診の目安と、うめもとクリニックで相談できること
動きにくさやふるえ、歩きにくさが数週間以上続く、日常生活に支障が出てきた、ご家族から見て明らかに様子が変わった。こうした場合は、一度脳神経内科で相談しておくことをおすすめします。必ずしもパーキンソン病と診断される訳ではありませんが、続く場合は確認しておくと安心です。
うめもとクリニックは、松山市にある内科・脳神経内科・リハビリテーション科のクリニックです。症状の背景を丁寧に確認したうえで、診断や薬物療法、そして適切なタイミングでのリハビリ介入を大切にしています。LSVT BIGについては、現在、認定療法士によってLSVT の概念を取り入れた訪問リハビリテーションを実施しています。完全に準拠したLSVT BIGは制度の問題から現在準備中で、ご案内できるようになりましたらお知らせいたします。ご本人だけでなく、ご家族のご心配ごとも含めて、一緒に整理していければと思います。
まとめ
パーキンソン病の動きの変化は、年齢のせいに見えて見過ごされがちです。そして「もう歳だから」「もの忘れもあるから」と、リハビリそのものをあきらめてしまう方も少なくありません。けれど近年の研究では、年齢や軽い認知機能の低下があっても、改善が期待できる可能性が示されつつあります。大切なのは、早めに状態を確認し、その方に合った形を一緒に考えていくことです。気になる変化があれば、どうか一人で抱え込まず、ご相談ください。これからの生活を、一緒に整えていきましょう。
引用文献
- Ebersbach G, et al. Comparing exercise in Parkinson's disease—The Berlin LSVT® BIG study. Mov Disord. 2010.
- McDonnell MN, et al. LSVT-BIG to improve motor function in people with Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2018.
- Matsuno A, et al. Quantitative assessment of the gait improvement effect of LSVT BIG® using a wearable sensor in patients with Parkinson's disease. Heliyon. 2023.
- Iwai M, et al. Influence of Mild Cognitive Impairment on LSVT® BIG Therapy Effectiveness in People with Parkinson's Disease: A Retrospective Cohort Study. Phys Occup Ther Geriatr. 2025.
- Iwai M, et al. Influence of Age on the Effectiveness of LSVT® BIG in Patients with Parkinson's Disease: A Retrospective Exploratory Observational Study. Geriatrics. 2026.
