【院長ブログ】片頭痛治療の新しい光「ナルティーク」
12月に入り、師走という言葉の通り、年末に向けてお仕事やご家庭の用事で慌ただしくされている方も多いのではないでしょうか。寒暖差が激しくなり、気圧の変化も起きやすいこの季節は、多くの片頭痛患者さんが体調を崩しやすい季節でもあります。
「大事な会議があるのに頭が痛くて集中できない」「年末の大掃除をしたいけれど、体を動かすとズキンズキンと痛む」。片頭痛は単なる「頭の痛み」ではなく、生活そのものを脅かす病気です。
そんな中、2025年12月16日より新しい片頭痛治療薬「ナルティーク(一般名:リメゲパント)」が日本で販売開始となります。
今回は、この新薬「ナルティーク」について、どのような特徴があるのか、従来の薬と何が違うのか、そしてどんな患者さんに適しているのかを、解説していきたいと思います。
片頭痛が患者さんを苦しめる現状
新薬のお話をする前に、まずは片頭痛という病気がどれほど患者さんを苦しめているかについて、少し触れさせてください。ご家族や職場の方にも、ぜひ知っていただきたい事実があります。
日本国内で行われた大規模な調査(OVERCOME研究など)によると、片頭痛患者さんの約74%が、発作のたびに「寝込む」あるいは「寝込むほどではないが生活に支障がある」と感じていることが分かっています。実に4人に3人が、日常生活を普通に送ることすら困難な状況に置かれているのです。
片頭痛患者さんの多くが、「仕事や勉強に集中できず、能率が低下すること」を最も辛いこととして挙げています。会社や学校に行けてはいるものの、頭の中では激しい痛みに耐えており、本来のパフォーマンスを発揮できない。周囲からは「普通に座っている」ように見えるため、「サボっているのではないか」「やる気がないのではないか」と誤解されてしまう。これが片頭痛の隠れた側面でもあります。
また、「いつ発作が起きるか分からないから、旅行や友人と会う約束ができない」という予期不安を抱えている方も3割近くいらっしゃいます。痛みがない時でさえ、次の痛みの恐怖に怯えなければならない。これでは心からの安らぎを得ることは難しいでしょう。
私たちは、こうした患者さんの「生活の質(QOL)」を取り戻すことを治療の最大の目標にしています。そして、今回登場した「ナルティーク」は、新たな選択肢となると考えます。
ナルティークとは?
さて、ここからは新薬「ナルティーク」についてお話しします。このお薬は、「経口CGRP受容体拮抗薬」という新しいタイプの片頭痛治療薬です。少し難しい名前ですが、簡単に言えば「痛みの原因物質が働くのを直接ブロックする飲み薬」と考えてください。
ナルティークには、これまでの日本の片頭痛治療薬にはなかった、非常に大きな特徴があります。それは、「急性期治療(痛い時に止める)」と「発症抑制(予防)」の両方に使える、日本で初めての飲み薬であるということです。
これまでは、「痛い時に飲む薬(トリプタンなど)」と「毎日飲んで予防する薬(カルシウム拮抗薬など)」は別々のものでした。しかしナルティークは、飲み方を変えるだけで、今起きている痛みを鎮めることもできれば、将来の痛みを防ぐこともできるのです。まさに「二刀流」の活躍が期待できるお薬と言えるでしょう。
また、このお薬は「OD錠(口腔内崩壊錠)」という形をしています。これは、水なしで舌の上でサッと溶けるタイプのお薬です。外出先や会議中、あるいは運転中など、すぐに水が用意できない状況でも服用できるため、忙しい現代人のライフスタイルに非常にマッチしています。
ナルティークとトリプタンの違い
片頭痛治療をされている方なら、「トリプタン」という名前を聞いたことがあるかもしれません。イミグラン、マクサルト、レルパックスなどがこれにあたります。トリプタンは長年、片頭痛の特効薬として多くの患者さんを救ってきました。
しかし、トリプタンには弱点もありました。それは「血管を収縮させる(縮める)作用」があることです。トリプタンは、広がってしまった脳の血管をギュッと縮めることで痛みを和らげます。そのため、狭心症や心筋梗塞の既往がある方、脳卒中を起こしたことがある方、高血圧の方などには、血管が詰まるリスクがあるため使用できませんでした。
また、トリプタン特有の「喉が締め付けられるような感覚」や「胸の不快感」が苦手で、服用をためらってしまう方も少なくありませんでした。
今回登場したナルティークの最大の特徴は、血管を収縮させる作用がないことです。ナルティークは、血管を縮めるのではなく、痛みの信号を伝える「CGRP受容体」という受け皿に蓋をすることで効果を発揮します。
そのため、これまで心臓や血管の病気があってトリプタンを使えなかった患者さんでも、安心して服用することができます。
薬物乱用頭痛(MOH)のリスクについて
もう一つ、重要な違いがあります。従来の鎮痛薬やトリプタンは、月に10日以上飲み続けると、逆に脳が痛みに敏感になり、「薬物乱用頭痛」という別の頭痛を引き起こすリスクがありました。「薬を飲めば飲むほど頭痛が増える」という悪循環です。
しかし、ナルティークの臨床試験データによると、長期間使用しても薬物乱用頭痛が発生したという報告は今のところありません。むしろ、予防的に使うことで頭痛の日数を減らす効果が認められています。これは、頻繁に頭痛薬を飲まざるを得なかった患者さんにとって、非常に大きな安心材料となるはずです。
ナルティークの使い方と効果
では、実際にどのように使うお薬なのでしょうか。ナルティークには2通りの使い方があります。
1. 急性期治療として使う場合(痛い時に飲む)
片頭痛の発作が起きた時、あるいは「あ、来そうだな」という予兆を感じた時に、1回1錠(75mg)を服用します。水なしで飲めるので、バッグやポケットに入れておけば、どこでもすぐに対応できます。
臨床試験では、服用から2時間後には約6割の方で痛みが軽くなり、約2割の方では痛みが完全に消えたという結果が出ています。また、片頭痛に伴う吐き気や、光や音がうっとうしく感じる症状も改善効果が示されています。
2. 予防療法として使う場合(発作を減らす)
月に何度も発作が起きて生活に支障がある場合は、予防薬として使用します。この場合は、「1日おき(隔日)」に1錠を服用します。毎日飲む必要はありません。
データによると、隔日で服用を続けた場合、月間の片頭痛日数が平均で約4.3日減少したという報告があります。月に8回あった頭痛が半分になるイメージです。
ナルティークがおすすめなのはどんな人?
これまでの情報を踏まえると、ナルティークは特に以下のような患者さんにとって、非常に良い選択肢になると考えられます。
まず、「トリプタンが効かなかった、あるいは体に合わなかった方」です。作用のメカニズムが全く異なるため、トリプタンが無効だった方でもナルティークなら効く可能性があります。諦めかけていた治療に、もう一度トライする価値があります。
次に、「心臓病や高血圧などの基礎疾患がある高齢の方」です。血管への影響が少ないため、より安全に片頭痛治療を行うことができます。健康に関心の高い中高年層の方々にも、安心しておすすめできるポイントです。
そして、「予防の注射が苦手な方」です。最近は「エムガルティ」や「アジョビ」といった非常によく効く注射の予防薬が登場していますが、「どうしても注射は怖い」「毎月通院して注射を打つのは大変」という方もいらっしゃいます。ナルティークなら、飲むだけで予防効果が期待できるため、心理的なハードルが低いと言えるでしょう。
ナルティークの費用について
良いことずくめのように見えるナルティークですが、一つだけ知っておいていただきたい点があります。それはお薬の価格です。
2025年12月現在、ナルティークの薬価は1錠あたり約2,923円です。健康保険で3割負担の方の場合、1錠あたり約880円の自己負担となります。ジェネリック医薬品が出ているトリプタン(1錠数十円〜百円程度)と比べると、経済的な負担はどうしても大きくなります。
たとえば、月に4回発作が起きてその都度飲む場合、薬剤費だけで月額約3,500円。予防薬として隔日で飲む場合(月15錠)、月額約13,000円ほどの負担になります。
ただ、片頭痛によって仕事を休んだり、大切な時間を失ったりする「損失」を考えると、十分に投資する価値があると考えています。また、高額療養費制度の対象になる場合もありますので、費用のことで不安がある方は、遠慮なく当院の受付や診察時にご相談ください。
当院の頭痛診療について
ここまで新薬のお話をしてきましたが、薬さえ飲めば全て解決するというわけではありません。片頭痛は、ストレス、睡眠不足、天候、ホルモンバランスなど、様々な要因が複雑に絡み合って起こります。
私たちは、単に「頭痛」という症状だけを見るのではなく、その背景にある患者さんの生活や悩み、人生そのものを見る「全人的医療」を理念として掲げています。
脳神経内科専門医として、まずはしっかりとした診断を行います。「片頭痛だと思っていたら別の病気だった」ということも珍しくありません。その上で、ナルティークのような最新の薬も含めた豊富な選択肢の中から、患者さん一人ひとりのライフスタイルや経済状況、価値観に合ったベストな治療法を一緒に探していきます。
もし、「今までの薬が効かない」「副作用が辛くて飲むのをやめてしまった」「市販薬を飲みすぎて効かなくなってきた」といったお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
片頭痛治療に新薬「ナルティーク」を紹介しました。血管を収縮させずに痛みをブロックする仕組み、急性期治療と予防の両方に使えるなど新しい側面があります。
ただし、どんなに優れた薬でも、万能ではありません。大切なのは、患者さんお一人おひとりの状態をしっかり見極め、その方に最も合った治療法を選ぶことです。トリプタンが合っている方もいれば、ナルティークの方が良い方もいます。あるいは、生活習慣の改善だけで劇的に良くなる方もいらっしゃいます。
ご不明な点がございましたら、診察時にお声がけください。
参考文献・資料
1. ファイザー株式会社「ナルティークOD錠75mg」添付文書・インタビューフォーム(2025年9月承認)
2. Croop R, Goadsby PJ, Stock DA, et al. Efficacy, safety, and tolerability of rimegepant orally disintegrating tablet for the acute treatment of migraine: a randomised, phase 3, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2019;394(10200):737-745.
3. Dodick DW, Lipton RB, Ailani J, et al. Ubrogepant for the treatment of migraine. N Engl J Med. 2019;381(23):2230-2241.
4. Sakai F, Suzuki N, Kim BK, et al. Efficacy and safety of rimegepant orally disintegrating tablet for preventive treatment of episodic migraine in Japan: Results from a multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled phase 2b/3 trial. Headache. 2022.
5. OVERCOME Study Japan - 日本における片頭痛の疫学・治療実態調査 Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17(1):15-22.
