【院長ブログ】 パーキンソン病の転倒予防~自宅でできるリハビリと家の工夫~
雨の降る日が多くなり、外を歩く時にも注意が必要な季節です。それと同時に、外来では「最近、転んだ」「方向転換のときにふらつく」といったご相談が増えてきます。ご本人よりも、付き添いのご家族が先に気づかれることも少なくありません。
パーキンソン病とお付き合いされている方にとって、転倒は避けて通りにくいテーマです。ただ、できる工夫は思いのほかたくさんあります。この記事では、自宅で取り組めるリハビリの考え方と、家の中の整え方、そしてどこから専門職に頼ればよいかを、いっしょに整理していきます。
なぜパーキンソン病では転びやすくなるのでしょうか
パーキンソン病では、動きがゆっくりになる、筋肉がこわばる、バランスが取りにくくなる、といった変化が少しずつ進みます。これらが重なると、ふだん何気なく行っていた立ち上がる向きを変える歩き出すといった動作のひとつひとつに、思った以上に負担がかかるようになります。
実際、パーキンソン病のある方は転倒を経験しやすいことが知られています。世界中の研究を集めたコクランレビューという論文では、軽症から中等症の方を中心に、転倒は決してまれな出来事ではないと報告されています。骨折につながると生活への影響も大きくなります。
ただ、ここで知っておいていただきたいのは、転びやすさは年齢のせいだけで片づけられるものではなく、対策によって減らせる部分があるということです。診察室でお話を伺っていると、もう転ぶのは仕方ないと半ばあきらめておられる方が意外に多いのですが、その前にできることがいくつもあります。
運動で転倒は約26%減らせる。ただしゼロにはできません
転倒予防を考えるうえで、運動はとても大きな役割を果たします。
世界中の研究をまとめた信頼性の高い分析(コクラン・システマティックレビュー、2022年)では、運動を行うことで転ぶ回数がおよそ26%減ると報告されています。これはかなり心強い数字ですが、注意していただきたい点もあります。この26%減は、転倒を完全になくせるという意味ではありません。1回以上転ぶ人の割合が減る効果は、もう少し控えめだとも示されています。
つまり、運動はリスクを下げる有力な手段ではあるけれど、それだけで転倒がゼロになるわけではない、ということです。けれども、このゼロにはできないという前提を持っておくことが、後でお伝えする環境の工夫やご家族の見守りと組み合わせるという考え方につながります。転倒予防は、運動・家の整え・周囲の支え、この三つを重ねていくものだと思っていただくとよいでしょう。
自宅でできるリハビリと、すくみ足への工夫
ご自宅で取り組める運動には、いくつかの方向性があります。立ち座りの練習、その場での足踏み、いつもより少し大きく足を上げて歩く練習、片足立ちなどのバランス練習、肩や脚のストレッチ、そして声を出す練習。どれも特別な道具はいりません。パーキンソン病では動きが知らないうちに小さくなりがちなので、いつもより大きく動かす意識を持つだけでも違ってきます。
歩き出すときに足が床に張りついたように動かなくなる、いわゆるすくみ足にお困りの方も多いと思います。これには外からのきっかけ(合図)が役立つことがわかっています。
- 床にテープで横線を引き、その線をまたぐつもりで足を出す
- イチ、ニ、イチ、ニと声を出す、ご家族に声をかけてもらう
- 好きな音楽やメトロノームのリズムに合わせて歩く
こうした視覚や音のきっかけが、止まってしまった足を動かしやすくしてくれます。なお、特定の運動が他より格段に優れているという明確な根拠はありません。だからこそ、続けられること、できれば少し楽しめることを基準に選んでいただくのがいちばんです。
家の中の工夫が、運動と同じくらい大切です
転倒は、運動機能だけでなく環境によっても大きく左右されます。高齢者の転倒予防に関する国際的なガイドライン(2022年)でも、自宅の危険箇所を見直すことが勧められています。
家の中で見直しておきたいところを、いくつか挙げます。
- ・段差やめくれたカーペット、床に置いた電気コードなど、つまずきの原因を片づける
- ・よく通る場所、特にトイレや廊下、階段に手すりを設ける
- ・夜間にトイレへ行く動線に足元灯をつける
- ・かかとが固定される、滑りにくい靴や室内履きを選ぶ
動作のなかでは、方向転換と、立ち上がった直後がとくに不安定になりやすい時間帯です。急がず、いったん止まってから動く、回るときは小さく回らず大きく弧を描くように、といった一呼吸を意識するだけでも転倒は減らせます。
薬の効き具合によって動きやすさが変わる方も多いので、調子の良い時間帯・良くない時間帯を意識して動作を計画することも、立派な転倒対策のひとつです。
自己流で続ける前に、一度専門職に見てもらいましょう
ここまで自宅でできることをお伝えしてきましたが、ひとつ大事な但し書きがあります。
自宅でのリハビリは、専門職の評価と指導があると、より安全で効果的になります。これは経験則だけの話ではありません。在宅運動をご本人やご家族にお任せする形で行った大規模な研究では、全体として転倒が思うように減らなかったという結果も報告されています。一方で、病状に応じて適切に組み立てられた場合には効果がみられています。
何を、どのくらい、どんな形で行うかは、病期や認知機能、これまでの転倒歴によって人それぞれ異なります。だからこそ、始める前に、また続けるなかで、詳しい医師や療法士に一度見てもらうことに大きな意味があります。
うめもとクリニックでは、症状の背景をていねいに確認したうえで、検査や生活面のアドバイス、リハビリテーション対応、必要な場合の専門医療機関との連携を行っています。転倒予防は、ご本人とご家族、そして医療者が一緒に組み立てていくものだと考えています。
まとめ
パーキンソン病の転倒は、ゼロにはできなくても、確かに減らせるものです。運動には転ぶ回数をおよそ26%減らす効果が報告されていますが、それを支えるのは家の中の工夫と、ご家族の見守りです。この三つを少しずつ重ねていくことが、いちばん現実的で、長続きする方法だと感じています。
何から始めればよいか迷われたら、一人で抱え込まずにご相談ください。今のお身体の状態に合わせて、無理のないところから、一緒に整えていきましょう。
引用文献・参考資料
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- Canning CG, et al. Exercise for falls prevention in Parkinson disease: A randomized controlled trial. Neurology. 2015. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4335992/
- Ginis P, Nackaerts E, Nieuwboer A, Heremans E. Cueing for people with Parkinson's disease with freezing of gait: A narrative review of the state-of-the-art and novel perspectives. Ann Phys Rehabil Med. 2018. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877065717304049
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- 日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018. https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
