【院長ブログ】 寝言や夢で暴れる症状は要注意?レム睡眠行動障害と脳の病気の関係
5月も半ばを過ぎ、気温があがることが多くなり、朝晩の気温差で寝苦しさを感じる方も増えてきた頃かと思います。
最近、患者さんやご家族から「夫が寝ている間に大声で叫んで困っている」「夢を見ながら手足をバタバタさせて、私の顔を叩いてしまった」「父がベッドから落ちて怪我をした」といったご相談を、以前にも増して多くいただくようになりました。
ご本人は朝になると何事もなかったかのように過ごしており、何も覚えていない。けれど隣で寝ているご家族は気が気ではない。こうした症状、実は単なる「寝相の悪さ」や「年のせい」では片付けられないことがあります。今回は、レム睡眠行動障害という、知っているようで意外と知られていない睡眠の病気について、脳神経内科の視点から少しお話ししてみたいと思います。
寝言や寝相の悪さ、実は脳からのサインかもしれません
「うちの主人、若い頃から寝言がひどくて」。診察室でこう切り出されるご家族は少なくありません。たいていは笑い話で済むのですが、よく伺っていくと、ただの寝言ではない様子が見えてくることがあります。
たとえば、誰かと喧嘩をしているような大声を出す、手を振り回す、蹴る、ベッドの端まで動いてしまい、ドスンと落ちる、ご家族が肘で殴られて青あざができる。しかし本人は朝、何も覚えていない。あるいは「誰かに追いかけられる夢を見ていた」とだけ語る。
こうしたエピソードは、見た目のインパクトが強い割に、医療機関に相談されないまま何年も放置されがちです。「年のせい」「お酒のせい」「ストレスのせい」と片付けてしまう。でも実際には、脳の中で本来働いているはずのブレーキが利いていない状態、つまりレム睡眠行動障害(REM Sleep Behavior Disorder:RBD)という睡眠障害である可能性があります。
そして、ここからが大切な話なのですが、RBDは睡眠の問題であると同時に、脳神経内科で一度確認しておきたい症状でもあるのです。
レム睡眠行動障害(RBD)とは何か
人の睡眠は、深い眠りのノンレム睡眠と、夢をよく見るレム睡眠が、一晩のうちに何度も入れ替わりながら進んでいきます。
レム睡眠中、私たちの脳は意外と活発に動いています。夢を見るのもこのタイミング。ところが面白いことに、このとき体の筋肉には一時的に力が入らないようなロックがかかります。夢の中で走っても、実際の体は動かない。脳が「体を勝手に動かさないように」と安全装置を作動させているわけです。
レム睡眠行動障害(RBD)では、この安全装置がうまく働きません。夢の内容に合わせて、声が出る。手足が動く。場合によっては、ベッドから飛び出してしまう。
通常、夢を見ているレム睡眠中は、体が大きく動かないように筋肉の力が抜けています。ところが、この仕組みがうまく働かないと、夢の内容に合わせて声を出したり、手足を動かしたりすることがあるのです。これをレム睡眠行動障害といいます。
国内外の疫学では、一般人口の約0.5〜1%、特に50歳以上の男性に多いと報告されています。決して珍しい病気ではありません。
こんな症状はありませんか?セルフチェック
ご自身、あるいはご家族の睡眠中の様子を、少し思い返してみてください。次のような項目に心当たりがあるかどうかが目安になります。
- 寝ている間に大声で叫ぶ、怒鳴る、笑う
- 夢に合わせて手足をバタバタ動かす
- 殴る、蹴るような動作がある
- ベッドから落ちる、または落ちかけたことがある
- 隣で寝ている家族を叩いてしまったことがある
- 本人や家族が、睡眠中の動きで怪我をした
- 朝起きたとき、夢の内容を比較的よく覚えている
- 50歳を過ぎてから、こうした症状が新しく出てきた
寝言ひとつ、寝相の悪さひとつでは、すぐに病気とは言えません。ただ、上のような症状が繰り返し起きている、動きが大きい、怪我につながっているという場合は、一度ご相談いただきたいところです。
特に、ご家族から「最近、寝ている間の様子が変わってきた」と感じられている場合。本人は気づいていないことがほとんどですから、ご家族の観察情報こそが診断の入り口になります。
パーキンソン病やレビー小体型認知症との関係
ここからは、少し慎重にお話ししたい部分です。
研究が進むにつれて、RBDはパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症といった、いわゆる「シヌクレイノパチー」と呼ばれる脳の病気と関連することがあるとわかってきました。
日本神経学会の「パーキンソン病診療ガイドライン2018」でも、各疾患の患者さんでRBDがみられる割合は以下のように報告されています。
| 疾患名 | RBDがみられる割合 |
|---|---|
| パーキンソン病 | 30〜50% |
| レビー小体型認知症 | 50〜80% |
| 多系統萎縮症 | 80〜95% |
さらにRBDは、嗅覚低下や便秘とともに、これらの病気が運動症状として表に出てくる前の前駆期に現れることがあるとされています。
2019年にBrain誌に発表された、24施設・1,280人の国際多施設研究(Iranzoら)では、原因のはっきりしない孤立性RBDの方を平均4.6年追跡したところ、次のような結果が報告されました。
| 神経変性疾患への移行率(年あたり) | 約6.3% |
|---|---|
| 12年後の神経変性疾患発症率 | 約73.5% |
数字だけ見ると、ぎょっとされる方もいらっしゃるかもしれません。でも、ここを誤解していただきたくないのです。
RBDがあるからといって、必ずパーキンソン病やレビー小体型認知症になるわけではありません。
この研究で追跡されたのは、すでに睡眠検査で「孤立性RBD」と確定した方々です。つまり、いわゆる「寝言が多めの人」全員ではありません。さらに、移行リスクを高める因子としては、嗅覚低下、便秘、軽度の運動症状、軽度認知障害、勃起障害、画像検査の所見などが知られています。年齢や経過、他の症状を総合して評価する必要があるのです。
ですから「寝言が多い=パーキンソン病になる」という単純な話ではありません。むしろ、きちんと評価することで不要な不安を減らせる場面が多いと、私は日々の診療で感じています。
まず大切なのは、怪我を防ぐこと
治療の話に入る前に、どうしてもお伝えしたいことがあります。RBDで最も多い、そして最も避けたい合併症は、本人とご家族の怪我です。
ベッドからの転落で頭を打つ、サイドテーブルにぶつかって肋骨を折る、隣で寝ているパートナーが殴られる。実際、こうした事例は決して珍しくありません。
ですから、薬の前に、まず環境です。次のような工夫を、できる範囲で取り入れてみてください。
- ベッド周囲に、刃物・はさみ・割れ物など鋭利なものを置かない
- サイドテーブルの角や家具の角にクッション材を貼る
- ベッドの脇にマットや厚手のカーペットを敷く
- ベッドをできるだけ低くする、あるいはマットレスを床に敷く
- 窓際にベッドを置かない、窓に補助錠をつける
- 症状が強い時期は、寝室を分けることも前向きに検討する
ご夫婦で寝室を分けるというのは、心情的に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。ただ、ご家族の安全と睡眠の質を守ることもまた、ご本人を支える大切な土台になります。短期間でも構いません。状況に合わせて柔軟に考えていただければと思います。
米国睡眠医学会(AASM)が2023年に発表したRBD診療ガイドラインでも、薬物療法に先立って安全な睡眠環境の整備が強調されています。
診察で確認すること、治療、当院での取り組み
診察では、睡眠中の様子だけではなく、ふるえはないか、動作が遅くなっていないか、歩幅が狭くなっていないか、表情、声の大きさ、においの感じ方、便通、立ちくらみ、もの忘れ、日中の眠気をお伺いします。一見、睡眠とは関係なさそうな項目ばかりに思えるかもしれません。けれど、これらが組み合わさったときに、診断に繋がることがあります。
服薬の内容(特に一部の抗うつ薬や睡眠薬)、飲酒の習慣、いびきや睡眠時無呼吸の有無も大切な情報です。RBDに似た動きが、別の睡眠障害や薬剤の影響で起きていることもあるからです。
確定診断には、終夜睡眠ポリグラフ検査という、脳波・呼吸・心電図・筋電図などを一晩記録する専門検査が必要になります。当院ではこの検査自体は行っていませんが、必要と判断した場合には、適切な専門医療機関にご紹介し、診断後に当院で経過を一緒に診ていく、という連携の形をとっています。
うめもとクリニックでは、内科・脳神経内科・リハビリテーション科の3つの視点から、睡眠中の異常行動だけでなく、全身の症状を総合的に確認します。脳神経内科医として神経疾患の可能性をていねいに評価し、リハビリテーション科医として、転倒予防や生活環境の調整までお手伝いしています。
ご家族からの「実はこんなことがあって」という何気ない一言が、診断の決め手になることも珍しくありません。診察には、できればご家族とご一緒にお越しください。
まとめ
レム睡眠行動障害は、ご本人よりもご家族が先に気づくことの多い症状です。「寝言がひどい」「夜中に暴れる」「怪我をした」。そんな違和感を、年のせいで片付けてしまう前に一度立ち止まって考えていただきたいと思います。
すべての方が神経の病気に進行するわけではありません。けれど、ふるえ、歩きにくさ、便秘、嗅覚の低下、もの忘れなどを伴う場合には、脳神経内科で一度確認しておく価値があります。まずは怪我を防ぐ環境づくりから。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。
引用文献
- Iranzo A, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. Brain. 2019;142(3):744-759.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30789229/ - Howell M, et al. Management of REM sleep behavior disorder: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2023;19(4):759-768.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10071384/ - American Academy of Sleep Medicine. New guideline provides treatment recommendations for people who act out their dreams while asleep.
https://aasm.org/new-guideline-provides-treatment-recommendations-for-people-who-act-out-their-dreams-while-asleep/ - 日本神経学会. パーキンソン病診療ガイドライン2018.
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_24.pdf - Mayo Clinic. REM sleep behavior disorder – Symptoms and causes.
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/rem-sleep-behavior-disorder/symptoms-causes/syc-20352920 - Mayo Clinic. REM sleep behavior disorder – Diagnosis and treatment.
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/rem-sleep-behavior-disorder/diagnosis-treatment/drc-20352925
