【院長ブログ】 梅雨の片頭痛、毎年あきらめていませんか?頭痛薬だけに頼らない治療の考え方
6月になりました。梅雨が近づくと、外来でも「雨が降る前から頭が痛い」「梅雨になると毎年寝込んでしまう」「市販の頭痛薬を飲む回数が増えてきた」というご相談が、ぐっと増えてきます。
天気のせい、と片づけたくなるのですが、毎年のこととして我慢し続けるうちに、頭痛薬の使用が増え、かえって頭痛が慢性化していく方も少なくありません。今回は、梅雨に片頭痛が増えやすい理由、受診を考えたいサイン、そして「痛くなってから飲む薬」だけではない予防治療の選択肢について、脳神経内科の立場から整理してお伝えします。
梅雨時期に片頭痛が悪化する理由とメカニズム
梅雨時期は、気圧、湿度、気温が大きく動きます。片頭痛をお持ちの方の中には、こうした環境の変化をきっかけに発作が出やすくなる方がいらっしゃいます。アメリカ片頭痛財団も、気圧の変化が片頭痛発作の引き金になり得ることを指摘しています。
ただし、ここは少し慎重にお伝えしたいところですが、雨の日の頭痛がすべて気圧のせい、というわけではありません。診察室でお話を伺っていると、梅雨時期に頭痛が増える方の背景には、気圧の変化に加えて、寝苦しさによる睡眠不足、湿度の高さによる脱水、肩こり、自律神経の乱れ、ホルモン変化など、いくつもの要因が重なっていることが多いのです。
「気圧のせいだから仕方ない」とあきらめてしまうと、本来見直せるはずの生活習慣や薬の使い方まで手つかずになってしまいます。梅雨は、ご自身の頭痛パターンを一度立ち止まって整理する、ちょうどよい時期でもあります。
その頭痛は片頭痛?見分けるためのセルフチェック
頭痛にはさまざまなタイプがありますが、片頭痛にはいくつかの典型的な特徴があります。国際頭痛分類(ICHD-3)では、ズキズキと脈打つような痛み、片側にくることが多い、中等度から重度の痛み、体を動かすと悪化する、吐き気を伴う、光や音がつらく感じられる、といった点が挙げられています。
外来でよく感じるのは、片頭痛を「ただの頭痛」として軽く扱われてしまっているケースが多いということです。実際には、発作が4時間から長いと3日近く続くこともあり、その間は仕事も家事も手につかない、暗い部屋で横になるしかない、という方も珍しくありません。
次のような特徴に心当たりがある場合は、片頭痛の可能性を考えてみてもよいかもしれません。
| 痛みの性質 | ズキズキと拍動するような痛みで、頭の片側に出ることが多い |
|---|---|
| 随伴症状 | 吐き気を伴ったり、光や音、においがつらく感じられる |
| 動作による変化 | 動くと痛みが悪化し、じっとしていたくなる |
| 誘因 | 雨の日や台風前、生理前、寝不足の翌日に出やすい |
| 生活への影響 | 数時間から数日続き、日常生活に支障が出る |
上記の表はあくまで目安ですので、緊張型頭痛や群発頭痛、あるいは他の原因による頭痛との見分けは、診察で丁寧に確認する必要があります。
頭痛薬の飲み過ぎに注意:薬剤使用過多頭痛(MOH)とは
片頭痛のお話の中で、ぜひ一度立ち止まって考えていただきたいのが、頭痛薬の使用頻度です。発作時にきちんと薬を使って痛みを抑えることは治療の基本ですが、ここに少し厄介な落とし穴があります。
急性期の頭痛薬を頻回に使い続けていると、薬剤使用過多頭痛(MOH)といって、薬そのものが原因で頭痛が慢性化してしまう状態に陥ることがあるのです。
ICHD-3では、薬の種類により月に10日以上、あるいは月に15日以上の使用が3か月を超えて続いている場合に、薬剤使用過多頭痛を疑うとされています。市販薬であっても、対象になり得ます。
次のような状況が当てはまる方は、一度ご相談いただきたいサインです。
| 服用日数 | 月に10日以上、あるいは月に15日以上の使用が3か月以上続く |
|---|---|
| 薬の効き目 | 以前より薬が効きにくくなってきたと感じる |
| 不安感 | 薬を切らすと不安で、念のため朝から飲んでしまう |
| 頻度の変化 | 頭痛のある日数が、以前より明らかに増えてきた |
「薬がないと不安」という感覚自体が、治療の見直しを教えてくれているサインかもしれません。
痛みを未然に防ぐ「片頭痛の予防治療」という選択肢
片頭痛の治療は、大きく二つに分けて考えます。一つは、発作が起きたときに痛みを止める急性期治療。もう一つが、発作の回数そのものを減らしていく予防治療です。現在は予防治療の選択肢がかなり広がっています。
外来で意外に多いのが、「片頭痛は、痛くなったら薬を飲むしかないと思っていました」というお声です。確かに以前は選択肢が限られていた時代もありましたが、現在は予防治療の引き出しがかなり広がっています。発作回数が多い方、生活への支障が大きい方、急性期薬の使用日数が増えてきた方では、予防治療を検討する価値があります。
予防治療の柱は、いくつかあります。古くから使われている内服の予防薬(一部の降圧薬、抗てんかん薬、抗うつ薬など、片頭痛予防に効果が示されているもの)、生活リズム・睡眠・水分・カフェインの調整、そして近年加わったCGRP関連薬と呼ばれる新しいタイプの予防薬(注射薬)です。
CGRP関連薬については、日本人を含む実臨床のデータでも、片頭痛の日数や生活への支障が改善したという報告が出てきています。ただし、これは「全員に必要な治療」ではありません。発作の頻度、これまでに試した薬、副作用の出やすさ、ほかの病気、費用、そういったことを一つひとつ確認しながら、その方に合った選択肢を一緒に決めていくことになります。
予防治療は、「最新だから選ぶ」のではなく、「あなたの頭痛のパターンに合うから選ぶ」もの、と考えていただくのがよいと思います。
医療機関を受診する目安と診察をスムーズにする準備
「これくらいで受診してよいのだろうか」と迷われる方は多いですが、一人で抱え込まずにご相談ください。受診を検討すべき目安は以下の通りです。
- 月に数回以上、頭痛で仕事や家事に支障が出ている
- 頭痛薬を月に10日以上使っている、または市販薬の量が増えてきた
- 吐き気、光や音のつらさを伴う頭痛がある
- 予防薬や注射の治療について、詳しく話を聞いてみたい
一方で、突然の激しい頭痛や、手足の麻痺、ろれつのまわりにくさを伴う場合は、脳卒中など緊急を要する病気の可能性があります。その際はためらわず救急受診をご検討ください。
受診の際は、簡単で構いませんので、頭痛のあった日、薬を飲んだ日と薬の名前、天気や睡眠、生理周期との関連をメモしてお持ちいただけると、診断と治療方針の決定がぐっとスムーズになります。スマートフォンのカレンダーやメモ機能で十分です。
うめもとクリニックでの頭痛外来の取り組み
当院の頭痛外来では、頭痛のタイプを丁寧に確認し、必要に応じて画像検査などを含めて他の病気との見分けを行いながら、治療方針をご相談しています。急性期の頭痛薬の見直しから、最新のCGRP関連薬を含む予防治療まで、患者さんのライフスタイルに合わせて一緒に組み立てていきます。
「ここまでがんばらないと受診してはいけない」というラインはありません。毎年梅雨がつらい、というそれだけでも、十分なご相談のきっかけです。
まとめ
梅雨や雨の日の頭痛を、我慢してこられた方は本当に多くいらっしゃいます。けれども、片頭痛は頭痛薬だけで耐えるしかない病気ではなく、回数を減らすための予防治療を検討できる時代になっています。
頭痛薬の回数が増えてきた方、生活への支障を感じている方は、どうぞ早めにご相談ください。頭痛のタイプを整理し、あなたに合った治療法を一緒に考えていきましょう。
引用文献・参考資料
International Classification of Headache Disorders 3rd edition. Migraine without aura. https://ichd-3.org/1-migraine/1-1-migraine-without-aura/
International Classification of Headache Disorders 3rd edition. Medication-overuse headache. https://ichd-3.org/8-headache-attributed-to-a-substance-or-its-withdrawal/8-2-medication-overuse-headache-moh/
American Migraine Foundation. Barometric Pressure and Migraine. https://americanmigrainefoundation.org/resource-library/barometric-pressure-migraine/
日本頭痛学会. CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン. https://www.jhsnet.net/guideline_CGRP.html
厚生労働省. 最適使用推進ガイドライン ガルカネズマブ. https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000768564.pdf
Effectiveness of Galcanezumab and Traditional Oral Migraine Preventive Medications: Interim 3-Month Japan Subgroup Findings from the TRIUMPH Study. Advances in Therapy. 2026 Apr 22. https://www.springermedicine.com/galcanezumab/migraine/effectiveness-of-galcanezumab-and-traditional-oral-migraine-prev/52323720
