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【院長ブログ】 物忘れ予防に運動は効く?アルツハイマー病と運動習慣の最新知見

[2026.05.10]

新緑が深まり、朝の散歩が心地よい季節になりました。そんな時期だからこそ、外来でよくいただくのが「物忘れが心配なんですが、脳トレをした方がいいですか?」というご質問です。もちろん頭を使うことも大切なのですが、実はそれと同じくらい、あるいは人によってはそれ以上に、"体を動かすこと"が脳の健康と深く関係していることがわかってきました。

今回は、アルツハイマー病と運動習慣に関する最新研究を整理しつつ、地域の皆さまが今日から無理なく取り組める方法をお伝えいたします。

運動は本当に脳に効くのか — 最新研究が示すこと

「運動が体にいい」のは誰もが知るところですが、脳、特に認知症に対してここ数年、この問いに対する研究が急速に増えています。

2026年にFrontiers in Public Health誌に掲載されたメタ解析(複数の研究結果を統計的な手法を用いて分析する研究方法)では、結果として、運動介入を受けた群では、全般的な認知機能が統計学的に有意に改善していたと報告されています。効果量としては"小さい"分類に入るものですが、薬物治療ですら劇的な改善が難しいこの領域において、運動という生活習慣で有意な差が出たことの意味は決して小さくありません。

一方で、過剰な期待もまた禁物です。2024年のJAMA Network Openに掲載された、341,471人を対象とする大規模なシステマティックレビューでは、身体活動と認知機能低下の関連は確かにあるものの、長期で追うと効果が弱まるケースもあると報告されています。つまり運動は、脳を守る重要な柱の一つではあるけれど、万能薬ではない。このバランスが、いま私たちが持つべき正しい認識だと考えています。

そしてもう一つ、忘れてはいけない視点があります。Lancet Commissionの2024年報告では、認知症の約45%は、修正可能な14の危険因子への対策で予防または遅延できる可能性があるとされています。運動は脳を守る重要な柱の一つですが、決して万能薬ではありません。高血圧、糖尿病、難聴、社会的孤立など、他の因子と組み合わせて生活習慣を整えていくことが、結局のところ最も効果的な認知症対策なのです。

どれくらい動けばいい? — 数字で見る運動量の目安

「では、何分歩けばいいんですか?」。これも頻繁にいただく質問です。ここは曖昧にせず、具体的な数字でお伝えします。

厚生労働省が2023年に公表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(高齢者版)」では、高齢者の目安として、1日40分以上の歩行、歩数にして1日約6,000歩以上が推奨されています。体力に余裕のある方では、1日60分・約8,000歩がさらに望ましいとされます。これに加えて、筋力トレーニングを週2〜3回、バランス運動を週3回程度組み合わせることが理想です。

WHOやAlzheimer's Associationの推奨も、ほぼ同じラインに収束します。中等度の有酸素運動を週150分程度、たとえば30分の散歩を週5回。これを"基準値"として頭に置いていただくとよいでしょう。

ただ、私はここで一つ強調しておきたいことがあります。最初から6,000歩を目指す必要は、ありません。今より10分多く歩く、エレベーターを一階分だけ階段にする、テレビのCM中に立ち上がる。それだけでも、何もしないより明らかに良い、というのがWHOの一貫したメッセージです。"昨日の自分より、ほんの少し動けた"。それが続けばよいのです。

完璧にこなす必要はなく、週の半分でもできれば上出来、というくらいの気持ちで始めていただきたいと思います。

  1. 今より10分多く動く
    まずは今の生活にプラス10分の活動、あるいはテレビのCM中に立ち上がるところから始めます。
  2. 1日40分の歩行を目指す
    体が慣れてきたら、1日合計で40分程度、歩数にして6,000歩を目標にします。
  3. 筋トレや多重課題を取り入れる
    余裕が出てきたら、週に数回の筋力トレーニングや、頭を使いながらの運動を組み合わせていきます。

どんな運動が脳にいいのか — ウォーキングと「コグニサイズ」

運動の種類によって、脳への効きかたには少し違いがあります。

まず土台になるのは、ウォーキングを中心とした有酸素運動です。心拍数が少し上がる程度の運動は、脳への血流や酸素供給を増やし、神経細胞のネットワーク維持に関わるとされています。次に筋力トレーニング。下肢の筋力低下は、転倒を介して認知機能低下にも影響します。椅子からの立ち座りを10回、軽いスクワットを数回。それで十分です。さらに、ストレッチやバランス運動を加えると、転倒予防という観点でも完成度が上がります。

そして、ぜひ知っていただきたいのが、国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」という取り組みです。これは"cognition(認知)"と"exercise(運動)"を組み合わせた造語で、体を動かしながら同時に頭を使う、という方法です。たとえば、足踏みをしながら100から3ずつ引いていく。歩きながらしりとりをする。ステップを踏みながら昨日食べたものを思い出す。

面白いのは、コグニサイズの目的は"うまくできること"ではない、という点です。むしろ、少し間違えるくらいがちょうどいい。脳に軽い負荷をかけることそのものが狙いなので、できないと笑いながらやるのが、実はベストな取り組み方なのです。ご夫婦で、あるいはご家族で、散歩のついでにしりとりを始めてみる。これだけでも立派な認知症予防になります。

継続をサポートする当院の訪問・通所リハビリテーション

ここまでお読みいただいて、「理屈はわかった。でも、自分一人ではなかなか続けられない」と感じた方も多いのではないでしょうか。実は、外来でも最も多いお声でもあります。

うめもとクリニックでは、こうした方々のために、訪問リハビリテーション通所リハビリテーションの両方をご提供しています。

訪問リハビリテーションは、理学療法士・作業療法士がご自宅にお伺いし、その方の生活環境に合わせた運動指導を行うものです。「家の廊下が狭くて歩きにくい」「玄関の段差で転びそうになる」といった、実際の生活動線で起きる困りごとに、その場で対応できるのが大きな強みです。脳卒中後の方、パーキンソン病の方、転倒歴のある方など、外出そのものに不安がある方に特に向いています。

通所リハビリテーションでは、当院に通っていただき、専門職の指導のもとで有酸素運動、筋力トレーニング、バランス運動、そして先ほどご紹介したコグニサイズに近い課題などを、コグニバイクを用いて行っています。一人だと続かない運動も、仲間がいると不思議と続くものです。社会参加そのものが認知症予防になる、というLancet Commissionの指摘ともよく合致します。

私たちが大切にしているのは、"運動の処方箋"を画一的に出すことではありません。脳神経内科専門医とリハビリテーション科専門医の視点を組み合わせて、その方の認知機能、運動機能、ご家庭の状況、ご本人とご家族の希望をふまえて、無理なく続けられるプランを一緒に考える。これが、当院が目指している全人的な医療のかたちです。

物忘れの評価、もの忘れ外来、認知症の鑑別診断はもちろん、その先の"暮らしを支えるリハビリ"までを一つのクリニックでつなげられること。これは、地域のかかりつけ医療機関として、私たちが担うべき役割だと考えています。

まとめ — 認知症予防の一歩を、今日から

運動は、物忘れや認知症を"完全に防ぐ魔法"ではありません。しかし、血圧、血糖、睡眠、気分、転倒予防にも良い影響を与え、脳を守る生活習慣として確かな価値があることが、最新の研究で次々と裏づけられています。1日40分の歩行、または6,000歩。難しければ、今より10分多く歩くことから。完璧を目指さず、続けられる量を見つける。これが何よりの近道です。

最近物忘れが増えた、歩く速度が落ちてきた、ご家族から様子の変化を指摘された。そんなときは、ぜひ早めに脳神経内科でご相談ください。うめもとクリニックでは、物忘れの評価から運動・栄養・睡眠・血管リスクの見直し、訪問・通所リハビリまで、一貫して伴走いたします。脳の健康を、一緒に、無理のないペースで守っていきましょう。

 

引用文献

  • Liu Y, et al. Frontiers in Public Health. 2026.
  • 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(高齢者版).
  • World Health Organization. Physical activity fact sheet.
  • Alzheimer's Association. Get Moving — Brain Health.
  • Livingston G, et al. The Lancet. 2024.
  • Sakurai T, et al. Alzheimer's & Dementia. 2024.
  • Iso-Markku P, et al. JAMA Network Open. 2024.
  • 国立長寿医療研究センター. 認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」.
  • 日本理学療法士協会. 認知症・認知症予防への運動の効果に関する研究について.

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