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【院長ブログ】パーキンソン病のiPS細胞治療は今どこまで進んだ?「自分は受けられる?」~脳神経内科医が解説します~

[2026.07.26]

暑さの続く季節ですが、体調はいかがでしょうか。外来ではiPS細胞の治療がニュースになっていたけれど、自分にもできるのでしょうかというご質問を、患者さんやご家族からいただくことが増えました。パーキンソン病と長く付き合ってこられた方ほど、この話題に希望を感じておられます。その気持ちは本当によくわかります。ただ、報道だけを見ていると実際の状況がつかみにくいのも事実です。この記事では、iPS細胞を使ったパーキンソン病治療が今どこまで来ているのか、誰が対象になり得るのか、そしてそれまでの間に私たちができることを、できるだけ正確に、わかりやすくお伝えします。

そもそもパーキンソン病とは、どんな病気でしょうか

パーキンソン病は、脳の奥にある黒質という場所で、ドパミンという物質を出す神経細胞が少しずつ減っていくことで起こる病気です。ドパミンは体を滑らかに動かすために欠かせない物質で、これが不足すると、動作がゆっくりになったり、手足がこわばったり、じっとしているときに手がふるえたりします。歩幅がだんだん狭くなる、方向転換がしにくい、最初の一歩が出にくい、といった変化も特徴的です。

一方で、パーキンソン病は運動の症状だけの病気ではありません。便秘、頻尿、立ちくらみ、においがわかりにくい、眠りが浅い、気分が落ち込むといった、体のさまざまな不調をともなうことがあります。こうした症状は運動の症状より先に現れることもあり、外来でお話を伺っていると、後から振り返ってあれもそうだったのかもしれないと気づかれる方が少なくありません。

発症は50歳から65歳くらいに多いとされますが、年齢が上がるほど起こりやすくなります。原因を一つに特定できないことがほとんどで、加齢や体質、環境などが複雑に関わっていると考えられています。生活習慣だけが原因でなる病気ではありませんので、ご自分を責める必要はありません。

ニュースになったiPS細胞治療は、今どこまで進んでいるのでしょうか

まずお伝えしたいのは、この治療がすでに研究段階だけではない、ということです。iPS細胞からつくったドパミン神経のもとになる細胞を使った製品が、2026年3月6日に条件及び期限付承認という形で承認され、5月20日には公的医療保険の対象にもなりました。世界でも例のない、日本発の再生医療製品です。ここだけを聞くと、もう広く受けられる治療になったように感じられるかもしれません。

ただ、承認されたことと効果がはっきり確立したことは、同じではありません。今回の承認は、限られた人数の治験の結果をもとに、安全性が確認され、効果が期待できると推定された段階で認められたものです。そのため、これから限られた施設で追加の臨床試験を行い、有効性と安全性をさらに確かめていくことになっています。承認には7年という期限がつけられており、その間の結果によって、あらためて評価される仕組みです。

もとになった治験は、京都大学で行われたもので、移植を受けた患者さんは7人という小規模なものでした。24か月の観察のなかで、命に関わるような重い問題や、移植した組織が異常に増えるといった所見はみられませんでした。移植した場所でドパミンをつくる働きが増えていることも確認され、運動の症状が改善した方もいました。ただ、人数が少なく、比較する対照群もない試験ですので、この結果をそのまま効果が証明されたと言うことはできません。あくまで安全性と一定の有効性が示唆された段階、というのが正確な受け止め方と考えます。

自分は治療の対象になるの?というご質問について

これはもっとも多くいただくご質問です。結論から申し上げると、パーキンソン病と診断されているだけでは対象にはなりません。そして、年齢だけでも判断できません。

この治療が想定しているのは、レボドパを含むお薬による治療をきちんと行っても運動の症状を十分に抑えられず、それでもなおレボドパへの反応が残っている方が中心です。専門の施設で、お薬の効き方、薬が効いている時間と切れている時間の変動、これまでに受けた治療、認知機能や精神面の状態、脳の手術に耐えられる全身の状態など、たくさんの要素を総合的に見て判断されます。

インターネットなどでは、いくつか誤解されやすい言い方を見かけます。少し整理しておきます。

  • 若ければ受けられるわけではありません
  • レボドパが効かなくなったら受けられるわけではありません(むしろ反応が残っていることが前提です)
  • 65歳を超えたら一律に対象外と決まっているわけではありません
  • 脳深部刺激療法などを過去に受けた人は、将来にわたって永久に対象外とも言い切れません

現在進められている追加の臨床試験には独自の参加条件があり、それは承認された製品そのものの対象範囲とは必ずしも一致しません。ご自身が対象になるかどうかは、記事やニュースで判断できるものではなく、専門施設での詳しい評価が必要になります。

いつ頃、一般の患者さんが受けられるようになるのでしょうか

正直にお伝えすると、時期を断定することはできません。わかっている範囲でご説明します。

製品を手がける企業の計画では、追加の臨床試験は全国で7施設ほど(施設は選定中)で、2026年中の開始が予定されています。この試験で移植を受けるのは、まず18歳から65歳の方が30人、その完了後に65歳を超える方が5人の、合わせて35人という予定です。最初の移植は2026年の年末頃に行われる見込みと報じられています。つまり、当面のあいだは、この試験に参加する限られた方に移植が行われる段階です。試験参加者への移植が完了した後、対象となる施設や患者さんの範囲を広げていく計画とされていますが、具体的な時期や誰でも受けられるようになる時期が決まっているわけではありません。

2026年7月の時点で、愛媛県内や四国に実施施設があるという情報は確認できていません。ただ、これは愛媛県では将来も受けられないという意味ではありません。今後の情報は変わっていく可能性が高いので、確定した話として受け取らず、公式の発表を待つことをおすすめします。

もう一つ、大切な点があります。この治療は、パーキンソン病を完治させたり、進行を止めたり、お薬を完全にやめられるようにする治療だと確認されたわけではありません。実際、もとの治験でも、24か月の時点でお薬の量はほとんど変わっていませんでした。認知症や飲み込みの障害、立ちくらみといった、ドパミン以外が関わる症状に効くとも確認されていません。過度な期待も、逆にまだ何もできないというあきらめも、どちらも正確ではないのです。

それまでの間に、今できることがあります

治療の登場を待つあいだ、何もできないわけではありません。むしろ、今のお薬の使い方とリハビリテーションを整えることは、iPS細胞治療の候補になるかどうかに関わらず、とても大切です。

パーキンソン病の治療の中心は、今もお薬とリハビリテーションです。ただ、長く付き合っていくと、薬が効く時間が短くなったり、飲む前に動きにくくなったり、逆に効きすぎて体が勝手に動いてしまうといった、効き方の波が出てくることがあります。薬が効かなくなったと感じるとき、その中身は実にさまざまで、量や飲む時刻、食事との関係、飲み忘れ、あるいはドパミン以外が関わる症状など、いくつもの要因を分けて考える必要があります。ここを丁寧に見直すだけで、生活のしやすさが変わることは、診察室でよく経験します。

ご自宅でこんな様子があれば、一度ご相談いただくと安心です。

  • 手のふるえ、動作の遅さ、こわばりが続いている
  • 歩幅が狭くなった、方向転換がしにくい、転びやすくなった
  • 薬が効いている時間が短くなってきた
  • 幻覚が見える、日中の強い眠気、衝動的な行動がある
  • 便秘や立ちくらみ、睡眠の問題が生活に響いている
  • むせる、食事に時間がかかる、体重が減ってきた

リハビリテーションも、お薬と組み合わせて行う大切な柱です。歩き方や姿勢、バランス、立ち上がり、着替えやトイレといった日常の動作、声の出しにくさや飲み込みまで、幅広く支えることができます。病気の進行そのものを完全に止めるものではありませんが、体の動きや生活の質を保つうえで、確かな意味があります。

まとめ

iPS細胞を使ったパーキンソン病治療は、承認と保険収載という大きな一歩を踏み出しました。ただ、今はまだ限られた患者さんと施設で、効果と安全性を確かめている段階です。ご自分が対象になるかは年齢や診断名だけでは決まらず、専門施設での評価が必要になります。だからこそ、今できることに目を向けて頂きたいのです。お薬の効き方の波を見直し、転倒や飲み込み、便秘などの症状に丁寧に対応していく。その積み重ねが、これからの選択肢を活かす土台にもなります。

うめもとクリニックは、症状やお薬の効き方を丁寧に確認し、必要に応じて介護保険による訪問リハビリテーションや、検査・専門医療機関との連携を行っています。なお、当院ではiPS細胞移植そのものは行っておらず、治療や臨床試験への参加を確約することはできません。将来、県内や近隣で体制が整った場合も、移植は所定の要件を満たす専門医療機関で行われると考えられます。当院は、今受けられる治療を整え、必要なときに適切な医療機関へおつなぎする役割を担います。気になることがあれば、どうぞ一緒に考えていきましょう。

引用文献・参考資料

    • 難病情報センターパーキンソン病(指定難病6)(2024年4月更新)↗ 
    • 日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018 ↗
    • 厚生労働省最適使用推進ガイドライン ラグネプロセル(令和8年5月) ↗
    • 医薬品医療機器総合機構(PMDA)ラグネプロセル 審議結果報告書・審査報告書(2026年2月19日)↗
    • Sawamoto N, et al. Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson's disease. Nature. 2025. ↗ 

 

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