【院長ブログ】夏のめまい・ふらつき、様子見て大丈夫?熱中症と脳卒中の見分け方と救急車を呼ぶ目安
松山・東温でも、朝から気温が上がる日が続いています。この時期の外来では「畑仕事の途中でふらついた」「立ち上がったら目の前が暗くなった」といったご相談が、急に増えてきます。多くは暑さと脱水が背景にありますが、なかには脳卒中が隠れていることもあります。暑い日に起きた症状でも、熱中症とは限りません。この記事では、迷わず救急車を呼んでいただきたいサイン、急ぎでないときの受診先、そしてご高齢の方や認知症・パーキンソン病のある方で特に気をつけたい点を、順番に整理していきます。
夏のめまい・ふらつきは、熱中症だけではありません
ひとくちに「めまい」といっても、診察室で伺うお話はさまざまです。天井がぐるぐる回る、身体がふわふわする、まっすぐ歩けない、立った瞬間に目の前が暗くなる。同じ「めまい」という言葉でも、中身はずいぶん違います。
原因も幅があります。耳の奥(内耳)の問題、脳幹や小脳の血管の問題、血圧や脈の乱れ、自律神経、脱水、お薬の影響、低血糖。夏はここに暑さと汗による水分・塩分の喪失が重なりますから、条件としては確かに熱中症が起こりやすい季節です。
ただ、外来でお話を伺っていると、ここで迷われる方が本当に多いのです。「回るめまいだから耳ですよね」「手足は動くので脳ではないですよね」。気持ちはよくわかります。けれど、めまいの感じ方だけで原因を振り分けることはできません。小脳や脳幹の脳梗塞でも、ぐるぐる回るめまいが前面に出ることがあります。熱中症と脳卒中が同時に起きている、ということもあり得ます。
熱中症を疑う症状と、水を飲むだけでは足りない理由
熱中症は、高温多湿の環境に身体がついていけず、体温の調節や水分・塩分のバランスが崩れて起こる不調をまとめた呼び方です。屋外だけの話ではありません。冷房を使っていない室内でも起こります。
次のような症状は、熱中症を疑う手がかりになります。
- めまい、立ちくらみ、生あくび
- 大量の発汗、こむら返り、筋肉痛
- 頭痛、吐き気、強いだるさ
- 受け答えがおかしい、ぼんやりしている
ここで、外来でいちばん多い誤解にふれておきます。「水分はしっかり摂っていました」とおっしゃる方は少なくありません。水分補給はもちろん大切ですが、それだけでは足りないのです。熱中症でまず必要なのは、体温を下げることです。涼しい場所へ移り、衣服をゆるめ、首の周り、脇の下、脚の付け根を冷やす。この三つを同時に進めてください。
飲み物については、少し注意が必要です。経口補水液を一度に大量に飲むのは勧められませんし、心臓や腎臓の病気で水分や塩分の制限を受けている方は、主治医の指示が優先されます。そして、自力で水分を飲めない、繰り返し吐く、呼びかけへの反応がおかしいというときは、無理に飲ませず救急車を呼んでください。
脳卒中を疑うサイン ― 迷わず119番を
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。次のような症状が突然出た場合は、熱中症かどうかを考えるより先に、119番へ連絡してください。
- 顔の片側がゆがむ、口の端が下がる
- 片方の腕や脚に力が入らない、急にしびれる
- ろれつが回らない、言葉が出ない、話が通じない
- 突然、支えなしでは立てない・歩けない
- 物が二重に見える、急に飲み込みにくくなった
- 今までに経験のない激しい頭痛
- 意識がもうろうとしている、けいれんしている
最初の三つは、脳卒中の警告サインとしてFAST(顔・腕・言葉・時間)と呼ばれているものです。ただし、FASTが当てはまらなければ安心、とは言えません。小脳や脳幹の脳卒中では、手足の麻痺が目立たず、突然の強いめまいと歩けなさだけが前面に出ることがあります。
突然の症状のときは、クリニックへの電話やWeb予約の返事を待たず、119番を優先してください。救急隊には「最後に普段どおりだった時刻」を伝えていただけると、その後の治療の判断がずいぶん変わります。ご本人に車を運転させることは、絶対に避けてください。
片側の脱力やしびれ、言葉の異常が数分から数十分で消えてしまうことがあります。治ったのだから大丈夫、と考えたくなるところですが、これは一過性脳虚血発作(TIA)といって、近いうちに脳梗塞が起こる前触れのことがあります。症状が消えていても、その日のうちに医療機関で評価を受けてください。
高齢者・認知症・パーキンソン病のある方は、特に注意が必要です
高齢の方は、暑さと喉の渇きに気づきにくい
厚生労働省の資料では、熱中症患者のおよそ半数が65歳以上とされています。年齢とともに、暑さを感じ取る力も、喉の渇きを感じる力も、汗をかいて体温を下げる力も少しずつ落ちていきます。ご本人は「そんなに暑くない」とおっしゃるのに、室温を測ると30度を超えていた、というのは当院でも珍しくありません。当院外来でも時折寒がってエアコンを28度以上に設定したままにされている方をお見かけします。
認知症のある方では、水分と室温を本人任せにしない
「水を飲むように何度も声をかけるのに、飲んでくれない」。ご家族から、この夏いちばん多く伺うお困りごとです。認知症だから喉が渇かない、という単純な話ではありません。暑さや渇きに気づきにくい、気づいても伝えられない、飲もうと思っても行動につながらない、トイレが心配で控えてしまう。いくつもの理由が重なります。
ですから、飲み物を置くだけでなく、実際に飲めたかどうかまで確認してください。時間を決めて声をかける、コップが空いたか見届ける、温湿度計を目につく場所に置き、エアコンが冷房になっているかを家族が確かめる。地味ですが、これがいちばん効きます。
パーキンソン病では、発汗と血圧の調節にも目を配る
パーキンソン病では、運動の症状だけでなく、発汗の異常や起立性低血圧といった自律神経の不調がみられることがあります。汗をかきすぎる方もいれば、思うように汗をかけない方もいます。暑さによる血管の拡張に脱水が重なると、立ちくらみや失神、転倒につながる可能性があります。
2024年に報告された海外の調査では、パーキンソン病のある方247人のうち78.9パーセントが「病気になってから暑さに敏感になった」と答えています。これは自己申告のアンケートで、熱中症になりやすいことを示した研究ではありません。それでも、暑さの影響を受けやすい可能性があるという前提で夏を過ごしていただく価値はあると考えています。
何科を受診すればよいか ― 受診の目安と、当院でできること
迷ったときの目安を、緊急度で三つに分けて整理します。
| 緊急度 | 状態の例 | 行動 |
|---|---|---|
| すぐ119番 | 顔のゆがみ、片側の脱力・しびれ、ろれつ障害、突然立てない・歩けない、意識がおかしい、けいれん、自力で水分が飲めない、一時的でも神経症状があった | 予約を待たず救急要請。発症時刻を伝える |
| 当日中に相談 | めまいが続く・繰り返す、休んでも改善しない、転倒した、失神しかけた、突然の難聴や耳鳴りを伴う、食事や水分・尿量が普段より減っている | 電話で状況を伝えたうえで受診 |
| 通常の外来で相談 | 立ち上がるたびにふらつく、夏になると毎年めまいを繰り返す、降圧薬や利尿薬との関連が気になる、家族の飲水・室温管理に困っている | 普段の診療時間に相談 |
受診先の目安は、次のように考えていただくとよいと思います。
| 症状の特徴 | 相談先の目安 |
|---|---|
| 神経の症状を伴う、歩行障害、ふるえ、脳卒中が心配 | 脳神経内科・脳神経外科 |
| 突然の難聴、耳鳴り、耳のつまり感を伴う | 耳鼻咽喉科 |
| 脱水、血圧、血糖、お薬の影響が疑われる | かかりつけの内科 |
| 突然の強い症状、歩けない、意識がおかしい | 救急外来(119番) |
うめもとクリニックは、松山市南梅本町の内科・脳神経内科・リハビリテーション科のクリニックです。ご自分で歩いて来院できる程度であれば、まず当院でご相談いただけます。詳しい問診と神経学的な診察、血圧の変動や血糖、血液検査、心電図、必要に応じて院内の頭部CTで背景を確認していきます。脳卒中が否定できないとき、動けないほどの症状があるときは、迷わず救急対応が可能な病院へおつなぎします。判断に迷う段階でお持ちいただくことに、意味があると思っています。ご来院の際は、お薬手帳を必ずお持ちください。ウェブ予約もご利用いただけます。
ご家族が確認・記録しておくとよいこと
救急車を呼ぶかどうかを迷う場面でも、次のことがわかっていると、その後の診療がずいぶんスムーズになります。
- いつから症状が出たか、最後に普段どおりだった時刻
- 顔のゆがみ、片腕の脱力、言葉の異常がないか
- エアコンが冷房になっているか、温湿度計で室内の環境を確認したか
- 飲み物を置くだけでなく、実際に飲めたか。食事量と尿の回数は減っていないか
- 会話、表情、反応、歩き方が普段と違わないか
- 薬を正しく飲めているか(パーキンソン病の方は最終服薬の時刻も)
- お薬手帳、持病の情報、緊急連絡先の準備
ひとり暮らしのご家族が心配な場合は、朝と夕方など時間を決めた電話や訪問、見守りサービスの利用も現実的な方法です。歩きにくさや転びやすさが以前から気になっている方は、転倒予防についての記事もあわせてご覧ください。
まとめ
夏のめまいやふらつきは、たしかに熱中症や脱水で起こります。ただ、季節だけを理由に決めつけてしまうと、脳卒中を見逃すことがあります。突然の顔のゆがみ、片側の脱力、ろれつの回らなさ、立てないほどのふらつき。このときは119番です。そこまでではないけれど気になる、という段階でも、どうぞ遠慮なくお持ちください。無理をしない範囲で体調を確かめながら、この夏を一緒に乗り切っていきましょう。
免責事項
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたもので、個々の診断・治療方針を示すものではありません。ご紹介したチェック項目は医学的な診断基準ではなく、これだけで熱中症や脳卒中を判断したり否定したりできるものではありません。お薬については、自己判断で中止・変更せず、必ず医師または薬剤師にご相談ください。
引用文献・参考資料
- 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2024. 2024. ↗
- 厚生労働省. 熱中症予防のための情報・資料サイト「熱中症にならないために予防の行動」. ↗
- 厚生労働省. 熱中症が疑われる人を見かけたら(応急処置). ↗
- 厚生労働省. 広報誌「脳卒中ってなぁに?」2024年10月号. ↗
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕. ↗
- 日本めまい平衡医学会. めまいQ&A/良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン2023年版. ↗
- 国立長寿医療研究センター. 高齢者のための熱中症対策ハンドブック. 2020. ↗
- Hunt AP, et al. Evidence of heat sensitivity in people with Parkinson's disease. 2024. ↗
- Pfeiffer RF. Autonomic Dysfunction in Parkinson's Disease. 2020. ↗
