納豆がもの忘れを遠ざける?〜高齢者の食習慣と脳の意外な関係〜
梅雨に向けて天気が下り坂の日が増えてきました。気温も上がり、皆様の朝の食卓に冷たい麦茶が並びはじめる頃でしょうか。納豆は日本人の朝食のメニューとして昔から馴染みのある一品です。2026年に納豆をよく食べる高齢者は、もの忘れや気分の落ち込みが少ない傾向にあるという日本発の研究結果が報告されました。今日は、この話題を入り口に、食習慣と脳の関係について、お伝えしていきます。
最新の研究報告でわかった納豆の可能性
2026年5月、日本人高齢者を対象にした研究結果が栄養学の専門誌で報告されました。鹿児島県垂水市の地域住民コホートから、65歳以上の616名を対象に、ふだんの納豆摂取習慣と、軽度認知障害(MCI)や抑うつ症状との関係を調べたものです。垂水市は全国でも納豆消費が多い地域のひとつで、習慣的に納豆を食べている方が比較的多いという背景があります。
この研究では、週に2〜3回以上食べている方を「納豆を習慣的に食べているグループ」と定義しています。結果は、このグループは軽度認知障害や抑うつ症状を抱えている割合が低い傾向にありました。年齢、性別、運動習慣、体力の衰え(フレイル)などの影響を差し引いても、この関係は残っていたとのことです。
「毎日たくさん食べないと意味がないのでは」と思われる方もいらっしゃいますが、この研究の枠組みでは、週2〜3回でも習慣として続いていることが、ひとつの目安になっていました。日常に取り入れやすい頻度だと思います。
この研究は、ある時点での状態を観察した横断研究ですが、これまでの長期的な調査でも同様の傾向が示されています。国立がん研究センターの大規模追跡研究では、女性において納豆摂取が多いグループで認知症リスクが低下する傾向が報告されています。国立長寿医療研究センターの研究でも、女性で大豆食品やイソフラボン摂取量が多いと、その後の認知機能低下リスクが低いという結果が出ています。
ひとつの研究だけでなく、長期に追跡した複数の研究で似た傾向が示されてきているのが現在の立ち位置です。とくに女性で関連がみられやすい傾向は、非常に興味深い共通点といえます。
なぜ納豆が?——考えられる理由
納豆を栄養学的に眺めてみると、1パック(およそ45g)に、たんぱく質が7〜8g、食物繊維が3gほど含まれています。加えて、大豆イソフラボン、ナットウキナーゼ、ポリアミンといった成分が脳との関係で注目されています。
| 成分名 | 期待される働き |
|---|---|
| 大豆イソフラボン | 抗酸化作用や血管の状態を整える働きがあると考えられています。 |
| ナットウキナーゼ | 血栓を溶かす方向に働く可能性があり、脳血管性のもの忘れ予防への関与が検討されています。 |
| ポリアミン | 細胞の老化を抑える働きがあるとされ、研究が進められています。 |
いずれも、「期待されている」段階のもので、「これを摂れば脳が守られる」と断定できる状況ではありません。診察室でもよくお伝えしていますが、食品の成分は薬とは違って、ひとつの物質で劇的な効果が出るというより、いろいろな成分がゆるやかに働きあっている、と理解していただくのが現実的だと思います。
もうひとつ大事な視点があります。納豆は発酵食品であり、腸内環境を整える働きが期待されています。近年、腸の健康と脳の健康が想像以上に深く結びついていることがわかってきました。腸内細菌が作り出す物質が、脳の炎症や気分の調整にまで影響しているという「脳腸相関」の考え方です。この点については、当院の別記事「腸は第二の脳?脳腸相関の最新知見〜認知症・パーキンソン病との関わり〜」で詳しく解説していますので、興味のある方はあわせて読んでみてください。
ただし、ここは要注意——納豆を控えるべき方
ここで、率直にお伝えしておかなければならないことがあります。ワルファリン(商品名ワーファリン)を服用している方は、納豆を食べてはいけません。これは絶対の注意点です。
ワルファリンは、心房細動や人工弁、深部静脈血栓症などで処方される、血を固まりにくくする薬です。納豆に含まれるビタミンK、特に納豆菌が腸内で作り続けるビタミンK2が、この薬の効き目を打ち消してしまいます。納豆以外にも、クロレラや青汁も同様に避ける必要があります。
ご家族の薬の袋を見て「ワルファリン」「ワーファリン」と書かれている方は、納豆は食卓に並べないようにしてください。なお、近年使われるようになった新しいタイプの抗凝固薬(DOAC:直接経口抗凝固薬)では、納豆の制限はありません。ただ、ご自身の飲んでいる薬がどちらか判断に迷うときは、自己判断で食べ始めず、かかりつけ医や薬剤師にひと言確認してください。
食事だけに頼らない、脳の整え方
ここまで納豆の話を中心にお伝えしてきましたが、外来でいつもお話ししていることをひとつ付け加えさせてください。食事だけで認知症やうつを防げるわけではない、ということです。
WHO(世界保健機関)が2019年に発表した認知機能低下予防のガイドラインでも、運動、禁煙、適度な飲酒、バランスのよい食事、社会的なつながり、十分な睡眠、生活習慣病の管理など、複数の要素を組み合わせることの重要性が強調されています。納豆をいくら食べても、夜更かしを続けて運動せず家にこもっていては、効果は期待しにくいでしょう。
逆に言えば、毎日の食卓に納豆を加えることは、和食を中心とした生活、人と一緒に食事を楽しむ機会、適度な活動量、といった「健康な暮らし方」全体の入り口として、無理なく続けやすい一歩だと考えています。「納豆さえ食べていれば」ではなく、「納豆も含めた毎日の整え方」と捉えていただくのがちょうどよいと思います。
うめもとクリニックでお手伝いできること
うめもとクリニックでは、もの忘れや気分の落ち込みといった年のせいで片づけたくないご相談を日々お受けしています。
初診では、まず丁寧にお話を伺うところから始めます。簡単な問診と認知機能のチェック、必要に応じて画像検査や血液検査、生活指導、リハビリテーション、専門医療機関との連携をご提案します。診察室では、「どう声をかけたらいいかわからなくて」とおっしゃるご家族のお話を伺うことも少なくありません。
特別なことと構えていただく必要はありません。「最近、ちょっと気になることがあって」と、お薬手帳をお持ちのうえお越しいただければ、そこからご一緒に整理していけます。
まとめ
納豆と脳の関係について、現時点でわかっていることをお伝えしてきました。研究はまだ「関連がありそうだ」という段階で、納豆さえ食べていれば安心、と言える話ではありません。それでも、食卓に無理なく取り入れられて、栄養価が高く、腸の調子も整えてくれる食品であることは確かです。ワルファリン服用中の方は控える、というひとつの注意点だけ守ったうえで、毎日の食習慣のひと工夫として取り入れてみてください。
引用文献・参考資料
Araki Y, et al. Habitual natto consumption is inversely associated with mild cognitive impairment and depressive symptoms in older Japanese adults: A cross-sectional study. Nutr Res. 2026.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0271531726000473
Murai U, et al. Soy product intake and risk of incident disabling dementia: the JPHC Disabling Dementia Study. Eur J Nutr. 2022;61(8):4045-4057.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35788776/
Nakamoto M, et al. Soy food and isoflavone intake reduces the risk of cognitive impairment in elderly Japanese women. Eur J Clin Nutr. 2018;72(10):1458-1462.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29348624/
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA). ワルファリンを飲んでいますが、納豆、クロレラ、青汁などの食品を食べてもいいですか?
https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-drugs/qa/0016.html
World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. 2019.
https://www.who.int/publications/i/item/9789241550543
うめもとクリニック院長ブログ. 腸は第二の脳?脳腸相関の最新知見〜認知症・パーキンソン病との関わり〜.
https://umemoto.clinic/?p=102698
