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膵がんは「早く小さく見つける」~松山で始まった見守りの仕組み「POMチェック」~

[2026.07.05]

梅雨が明けると、健診の結果を手に外来へ来られる方が増えてきます。「糖尿病の数値が急に悪くなった」「体重が知らないうちに減っている」――そんなお話を伺うたびに、私は膵臓のことを少しだけ思い浮かべます。膵がんは、決して他人事ではありません。けれど、近ごろは早く、小さく見つければ治せる可能性が高まることがわかってきました。この記事では、松山の医療機関が連携して始めた早期発見の取り組み「POMチェック」を中心に、ご自身やご家族が知っておくと安心な点をお伝えします。

早期発見の重要性:沈黙の臓器「膵臓」の特性

膵臓は、おなかの奥のほうにひっそりとある臓器です。胃の裏側に隠れるように位置しているため、異変があっても症状が出にくく、沈黙の臓器と呼ばれることがあります。

国立がん研究センターのがん情報サービスによると、膵がんと診断される方は1年間でおよそ47,540例(2023年)、亡くなる方は約41,235人(2024年)とされています。診断される数と亡くなる数がほとんど変わらない、という点に、この病気の難しさがあらわれています。同センターのデータでは、膵がん全体の5年相対生存率は8.5%(2009〜2011年診断例)で、これはすべてのがんのなかでも最も低い水準です。

数字だけを見ると、不安になられるかもしれません。私自身、専門は脳神経内科ですが、外来で患者さんの全身を診ていると、気づきにくい病気ほど、見つける入口を増やしておくことが大切だと感じます。膵がんはまさにそういう病気です。

1cm以下の発見で生存率80%超えを目指す「尾道方式」

ここからが、知っておいていただきたい大事なところですが、膵がんは早い段階で見つけられれば、状況が大きく変わります。

大阪赤十字病院がん診療センターによると、大きさ1cm以下で発見された膵がんの5年生存率は80.4%、1〜2cmで発見された場合でも50%と報告されています。先ほどの全体8.5%と並べてみると、いつ見つけるかがいかに重要かが伝わるかと思います。

同じ膵がんでも、見つかるタイミングによって見える景色がまったく違ってくる、ということです。だからこそ、症状が出てから動くのではなく、リスクのある方を早めに拾い上げる仕組みが求められています。

実は、こうした考え方を地域ぐるみで形にした先行例があります。広島県尾道市で2007年に始まった「尾道方式」です。尾道市医師会の公式サイトによると、かかりつけ医がリスクのある患者さんを腹部エコーや血液検査で拾い上げ、中核病院がMRIなどの高度な画像検査で詳しく調べる連携によって、早期発見の実績を積み重ねてきました。お隣の広島県では、この取り組みを県全体に広げた結果、2024年には膵がんの死亡率が全国で最も低い水準にまで改善したと発表されています。同じ仕組みを、ここ松山でも提供するのが「POMチェック」です。

松山市の膵がん早期診断システム「POMチェック」の流れ

POM(ポム)チェックは、Pancreas Observation in Matsuyama、つまり「松山における膵臓の見守り」を意味します。松山内科会と松山膵がん早期診断プロジェクト委員会が主体となって進めている取り組みで、当院もこのプロジェクトに参加しています。

  1. リスク確認の問診
    問診票を用いて、日常生活や既往歴の中に膵がんのリスクが隠れていないかを確認します。
  2. 一次検査の実施
    気になる点があれば、腹部超音波やCTによる画像検査と、リパーゼや腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の血液検査を行います。
  3. 精密検査へのご紹介
    検査で異常が疑われる場合は、より詳しく調べられる高度な精密検査が可能な医療機関へご紹介します。
  4. 継続的な経過観察
    精査の結果、直ちに治療の必要がない場合は紹介元へ戻り、定期的にその後の経過を慎重に確認していきます。

ポイントは、かかりつけ医が入口となって、必要な方を適切なタイミングで専門医療機関へつなぐ流れ。松山では、四国がんセンターや愛媛大学附属病院をはじめとする医療機関と固な連携体制が整えられています。

この流れの中では、近年保険適用された新しい血液検査(APOA2アイソフォーム検査)が活用される場合もあります。これは2024年4月から保険収載された、膵がん診断を補助する国産の検査です。ただしこれは「がんが確定する検査」ではなく、あくまで膵がんのリスクを補助的に評価する検査です。検査の組み合わせについては、お一人おひとりの状況を見ながら医師が判断します。

膵がんのリスクを把握するためのセルフチェック

診察室でお話を伺っていると、ご自身ではリスクに気づいていない方が意外に多いと感じます。次の項目に当てはまる場合は、一度医師にご相談いただくと安心です。

  • 膵臓の病気や異常を指摘されたことがある
  • 血のつながったご家族(親・きょうだい)に膵がんになった方がいる
  • 糖尿病がある(特に最近発症した、または急に悪化した)
  • 原因のはっきりしない上腹部痛や背部痛がある
  • 特に理由なく体重が減った(2kg以上)

とくに糖尿病については、大阪赤十字病院の解説によると、65歳以上での発症、糖尿病の家族歴がない、発症前後に2kg以上体重が減った、発症前のBMIが25未満(太っていない)といった場合は、注意が必要なサインとされています。「年齢のせい」「夏バテかな」と片づけたくなる気持ちはよくわかりますが、こうした変化が重なるときは、確認しておいて損はありません。

ご家族に膵がんの方がいる場合についても触れておきます。大阪赤十字病院の解説では、家族に膵がんの方がいる場合の発症リスクは1.70〜2.41倍、第一度近親者に2人以上いる家系では6.79倍と報告されています。心当たりがある方は、それだけで重く受け止めすぎる必要はありませんが、こうしたPOMチェックの対象として知っておいていただきたい情報です。

受診の目安と当院の診療方針

激しい腹痛、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、急激な体重減少がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。上記のセルフチェックに当てはまる方で、なんとなく不安という段階での相談も可能です。そうした早い段階での気づきこそ、POMチェックが最も力を発揮する場面だからです。

当院では内科のかかりつけ医として、患者さんの全身状態を丁寧に確認することを大切にしています。膵臓について気になる点があれば、問診や検査を通してリスクを整理し、必要に応じて適切な専門医療機関へと橋渡しをいたします。

膵がんはたしかに手ごわい病気ですが、地域で見守る仕組みが整いつつある今、早く、小さく見つけることは決して夢ではありません。一人で抱え込まず、診察時にぜひお聞かせください。

まとめ

膵がんは症状が出にくいため、早期発見が非常に重要です。1cm以下で見つけることができれば生存率は大幅に向上します。松山では、かかりつけ医と専門病院が連携する「POMチェック」によって、皆様の健康を守る体制を整えています。少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

免責事項

本チェックは膵疾患のリスク把握のための参考であり、すべての疾患を確実に発見するものではありません。症状や経過によっては医学的判断のもと追加検査を行うことがあります。気になる症状がある場合は必ず診察時にお知らせください。

引用文献・参考資料

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