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高齢者のインフルエンザ 認知症と間違えやすい「せん妄」

[2026.08.30]

8月の終わりに、インフルエンザが全国的な流行期に入ったという発表がありました。松山ではまだ蝉の声が聞こえる時期ですが、例年より1か月ほど早い流行入りで、外来でも「この暑さでインフルエンザですか」と驚かれる方が増えてきました。

インフルエンザが流行期に入る中で私がいま気にしているのは、ご高齢の方の受診が遅れることです。もの忘れ外来に通っておられる方のご家族から「急に認知症が進んだ気がします」とご相談をいただき、調べてみるとインフルエンザだった。そういうことが、実際にあります。この記事では、高齢の方や脳卒中の後遺症をお持ちの方にとって、インフルエンザがどんな顔をして現れるのかをお話しします。

この記事の要点

  • ご高齢の方は高熱が出ず、食欲低下やぼんやりだけのことがあります
  • 「急に認知症が進んだ」ように見える変化の多くは、せん妄です
  • 認知症のある方は、感染や脱水でせん妄を起こしやすくなります
  • 感染後しばらくは、心臓や脳の血管の病気が増えるという報告があります
  • 発熱の症状がある方は、来院前に089-976-1277へご連絡ください

高齢のご家族が急にぼんやりしてきた。認知症が進んだのでしょうか?

数日のうちに急に始まった変化なら、認知症の進行よりも先に、体の病気をきっかけとした「せん妄」を考えます。

せん妄は、感染症や脱水、薬、環境の変化などがきっかけで起こる、一時的な意識と注意の乱れです。話がかみ合わない、日付や場所があやふやになる、夜になると落ち着かず歩き回る。ご家族から見ると、認知症が一気に進んだように映ります。

ただ、認知症は月単位、年単位でゆっくり進むものです。昨日まで普通だった方が今日別人のようになったのなら、それは病気の進行ではなく、体のどこかで起きている急な変化のサインです。夏から秋にかけては、脱水と感染症が、その代表になります。

外来では、ご本人よりもご家族が先に異変に気づかれることの方が多い印象です。「なんとなくいつもと違う」という感覚は、けっこう当たります。当院のもの忘れ外来に通院中の方でしたら、いつもの主治医に「今日はいつもと様子が違う」と伝えていただくだけで十分です。

熱がないのにインフルエンザ、ということはありますか?

あります。ご高齢の方では体温が上がりきらず、37度台にとどまることも珍しくありません。

加齢とともに、体は熱を出す力そのものが落ちていきます。免疫の反応が鈍いぶん、教科書に載っているような「急な高熱と関節痛」が揃わない。そのかわりに、食事が進まない、水分をとらない、いつもの散歩に行きたがらない、といった生活の変化が先に出ます。

よく知られたインフルエンザの症状 ご高齢の方で目立ちやすい変化
38度以上の急な発熱 熱は37度台、あるいはほとんど出ない
強い関節痛・筋肉痛 なんとなく元気がなく、寝てばかりいる
のどの痛み、咳 食事や水分がとれなくなる
頭痛 ぼんやりする、落ち着かない、話がかみ合わない
強い倦怠感を自分で訴える ふらつきや転倒が増える

ご本人が「つらい」と言わないこと自体が、サインになることがあります。認知症のある方では、体調の悪さを言葉にできず、不機嫌さや落ち着かなさとして表に出ることも多いのです。

抗インフルエンザ薬は、発症からおよそ48時間以内に始めることが目安とされています。当院では、インフルエンザの抗原検査から処方まで当日中に対応しています。発熱やのどの痛み、咳などの症状がある方は、他の患者さんと動線を分けてご案内しますので、発熱外来のご案内をご確認のうえ、来院前にお電話をいただけると助かります。

せん妄と、脳症や薬の影響はどう見分けるのでしょう

見分けの手がかりは、始まり方と、1日の中での波です。せん妄は夕方から夜に強まる波があり、原因が治れば戻ります。

次の表は、外来でご家族に説明するときに私が使っている整理の仕方です。

項目 せん妄 認知症の進行
始まり方 数時間から数日で急に 数か月から数年かけて少しずつ
1日の中の変化 夕方や夜に強くなるなど、波がある 1日を通して大きな波は少ない
意識と注意 ぼんやりして、話の焦点が合わない 意識ははっきりしていることが多い
きっかけ 感染症、脱水、薬、入院や引っ越しなど はっきりしたきっかけがないことが多い
その後 原因が治ると戻ることが多い 元の状態に戻ることは少ない

ときどき「インフルエンザ脳症では」と心配されるご家族がおられます。インフルエンザ脳症は主に小さなお子さんに起こる病気で、高齢の方では多くありません。ただし脳症は数時間で急速に悪くなり、けいれんや強い意識障害を伴います。波があるかどうか、呼びかけに反応するかどうかが、判断の分かれ目になります。

薬の影響についても触れておきます。国は、小児や未成年の方について、抗インフルエンザ薬を飲んだかどうかにかかわらず、治療開始から少なくとも2日間はひとりにしないよう注意を呼びかけています。高齢の方については同じ形の注意喚起は出ていませんが、もともと複数のお薬を飲んでおられる方では、脱水や発熱をきっかけに薬の効きすぎが起こることがあります。自己判断で中止せず、お薬手帳を持って相談してください。

脳卒中や心臓の持病があると、注意点は変わってきますか?

変わります。インフルエンザにかかった直後の数日間は、心筋梗塞などの血管の病気が起こりやすくなることが知られています。

カナダ・オンタリオ州で行われた研究では、検査でインフルエンザと確認された35歳以上の方において、検体採取から7日以内に急性心筋梗塞で入院する頻度が、それ以外の期間と比べて約6倍でした(発症率比6.05、95%信頼区間3.86〜9.50)。8日目以降は上昇が見られなかったと報告されています。対象は検査を受けるだけの症状があった方に限られますので、軽い症状の方にそのまま当てはまる数字ではありません。

それでも、インフルエンザにかかった後しばらくは、血管に負担がかかりやすい時期だと考えておくのは、脳梗塞の既往がある方にとって意味のあることだと思います。発熱と食欲低下が重なると脱水が進み、血液が濃くなります。ここに感染に伴う炎症が加わる。当院の脳神経内科で脳卒中後のフォローをしている方には、この時期こそ水分をしっかり、と繰り返しお伝えしています。

予防接種との関係についても報告があります。カナダ・アルバータ州の住民を対象とした研究では、直近にインフルエンザワクチンを接種した人で脳卒中の発症リスクが低かったとされています。観察研究であり、接種する人としない人の生活習慣の違いなどが影響している可能性は残ります。ワクチンで脳卒中が防げると言い切れるものではありませんが、持病のある方が接種を検討する材料のひとつにはなります。

ワクチンはいつ相談すればよいですか?

例年なら10月からの案内になりますが、今シーズンは流行が早いので、9月のうちに予定を考えておかれるとよいと思います。

松山市では、65歳以上の方などを対象に、高齢者インフルエンザの定期予防接種が行われています。昨年度は10月1日から1月31日までの期間、自己負担金は1,500円でした。今年度の期間と金額はこれから市から公表されますので、決まり次第あらためてご案内します。東温市にお住まいの方は、それぞれの市の窓口でご確認ください。

効果について、国内の研究では、高齢者福祉施設に入所している65歳以上の方で、発病を34〜55%、死亡を82%阻止したと報告されています(厚生労働省Q&A)。これは施設入所者を対象とした研究の数字で、お元気に在宅で過ごしておられる方にそのまま当てはまるわけではありません。かからなくなる薬ではなく、重くなりにくくする備えだと考えていただくのが実際に近いと思います。

当院での接種の受付開始時期は、例年9月中旬以降ですが、ワクチンの入荷状況を確認したうえでお知らせします。定期接種の対象になる方は、市からの案内が届いてからで間に合います。あわてて予約を取り直す必要はありません。

ご家族が今日からできる、3つの備え

いちばん役に立つのは、その方の「ふだんの様子」をご家族の間で共有しておくことです。比べる基準があるから、異変に気づけます。

  • ふだんの体温、食事量、起床と就寝の時刻を、1週間だけでもメモしておく。高齢の方は平熱が低めのことが多く、37度台でも本人にとっては高熱です。
  • 水分をとる時間を決めておく。朝、昼、夕、就寝前と回数で区切ると、ご本人も家族も管理しやすくなります。
  • 受診時に持っていくものをひとまとめにしておく。お薬手帳、健康保険証や資格確認書、そして「いつから、どう違うか」を書いた紙が1枚あると、診察の精度が変わります。

3つ目のメモは、思っている以上に診断の助けになります。「3日前の夕方から夜眠らなくなった」「昨日から昼食を残すようになった」。この情報があるだけで、こちらの見立てはかなり絞れます。

迷ったときは、まずお電話でご相談ください。受診の流れは初診案内にまとめています。松山市・東温市の方で、通院が難しくなってきたというご相談も含めて、遠慮なくお声かけいただければと思います。

よくあるご質問

Q. 高齢の家族が熱を出しました。すぐに受診したほうがよいですか?

A. ご高齢の方は重症化しやすいため、早めのご相談をおすすめします。抗インフルエンザ薬は発症からおよそ48時間以内の開始が目安です。発熱の症状がある方は、来院前に089-976-1277へお電話ください。

Q. 熱が下がれば、もう心配はいらないでしょうか。

A. 解熱後も数日はウイルスが排出され、体の負担も残ります。ご高齢の方では感染後しばらく心臓や脳の血管の病気が増えるという報告もあります。胸の痛みや手足の動かしにくさには注意してください。

Q. 抗インフルエンザ薬は、必ず飲んだほうがよいですか?

A. すべての方に必須ではなく、年齢や持病、発症からの時間をふまえて医師が判断します。ご高齢の方や心臓・肺・脳に持病のある方では、使用を検討することが多いです。診察のうえでご相談しましょう。

Q. 認知症のある家族が落ち着かなくなりました。薬の副作用でしょうか。

A. 薬の影響もありえますが、発熱や脱水によるせん妄のことが多く見られます。自己判断で中止せず、いつから、どんな様子かをメモしてご相談ください。原因が治れば落ち着くことがほとんどです。

引用文献・参考資料(クリックで開きます)
  1. 厚生労働省.「インフルエンザに関する報道発表資料 2025/2026シーズン」. 2026年8月28日更新. リンク
  2. 厚生労働省.「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」. 令和7年度版. リンク
  3. Kwong JC, et al. Acute Myocardial Infarction after Laboratory-Confirmed Influenza Infection. N Engl J Med. 2018;378(4):345-353. doi:10.1056/NEJMoa1702090
  4. Holodinsky JK, et al. Association between influenza vaccination and risk of stroke in Alberta, Canada: a population-based study. Lancet Public Health. 2022;7(11):e914-e922. doi:10.1016/S2468-2667(22)00222-5
  5. 松山市.「高齢者のインフルエンザの定期接種」. 2025年10月22日更新. リンク

※ 上記URLの最終確認日:2026年8月30日
※ 本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や薬の内容については、必ずかかりつけの医療機関にご相談ください。

ご家族の「いつもと違う」が気になる方へ

熱が高くなくても、食欲が落ちた、ぼんやりしている、といった変化が数日で現れたときは、体のどこかで何かが起きているサインかもしれません。認知症の進行なのか、感染や脱水によるものなのかは、診察と検査である程度見分けがつきます。判断に迷われたときは、そのままお電話でご相談ください。

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お電話でのご予約 089-976-1277

松山市南梅本町甲1271(フジグラン重信 敷地内・駐車場あり)
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関連ページ:もの忘れ外来

この記事を書いた人

山下 泰治(やました たいじ)
うめもとクリニック 院長/医療法人三全会 理事長

愛媛大学医学部卒業。九州大学・愛媛大学の神経内科、愛媛医療センター、兵庫医科大学病院リハビリテーション科、松山リハビリテーション病院を経て、2022年より現職。もの忘れ・頭痛・しびれ・めまい・ふるえ・歩行障害の診療と、脳卒中後遺症のリハビリテーションを専門としています。

日本神経学会認定 神経内科専門医/日本リハビリテーション医学会認定 リハビリテーション科専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医
日本認知症学会認定 専門医/医学博士/難病指定医/身体障害者福祉法第15条指定医/臨床研修指導医

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本記事は、上記の医師が執筆し、内容を確認しています。
公開日:2026年8月30日|最終更新日:2026年8月30日

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