【院長ブログ】手のふるえは何科?本態性振戦とパーキンソン病の違い
お盆で親戚が集まると、ふだんは気づかない変化が目に入ることがあります。外来でも、この時期に「父の手が震えているのに気づきました」「年のせいだと聞いたのですが、本当でしょうか」といったご相談が増えます。ご本人にお話を伺うと、「お酒のせいかと思っていました」とおっしゃることも少なくありません。
手のふるえは、原因によってその後の対応が違ってきます。この記事では、何科に相談すればよいのか、よく心配される本態性振戦とパーキンソン病はどこが違うのか、そして受診の目安と、当院でどのように調べていくのかを順に整理してお伝えします。
手のふるえは何科? まずは脳神経内科へご相談ください
結論からお伝えすると、手のふるえの相談先は脳神経内科です。脳神経内科は、脳・脊髄・神経・筋肉の病気を、手術をせずに診ていく内科の一分野です。ふるえ、しびれ、歩きにくさ、もの忘れといった症状を扱っています。
混同されやすいのが脳神経外科で、こちらは脳出血や脳腫瘍などに対する手術を専門としています。手のふるえで整形外科を受診される方もいらっしゃいますが、骨や関節に原因がないふるえでは、なかなか答えにたどりつきません。まずはかかりつけの内科でご相談いただき、そこから紹介していただく形でも構いません。大事なのは入口の科名そのものではなく、相談する先があること、です。「何科か分からないから、とりあえず様子を見る」というのが、いちばん避けたい選択だと思っています。
ふるえを心配して頭部MRIを撮って「脳に異常はありません」と言われたまま、その後どうすればよいか分からずに過ごしておられる方が、思いのほか多いということです。これは検査が無駄だったという話ではありません。あとで詳しく書きますが、ふるえの代表的な原因は、そもそも画像に写らないのです。画像で異常がないと分かったうえで、では何が起きているのかを診察で詰めていく。そこが脳神経内科の役割になります。
いつ震えるのか ― それがいちばんの手がかりです
ふるえ(医学用語では振戦といいます)は、体の一部に起こるリズムのある動きで、自分の意思とは関係なく出てきます。診察でまず確認するのは、震えの大きさよりも、どんな場面で震えるのかです。
ひとつめは、何もしていないときに震えるタイプ。膝の上に手を置いて力を抜いていると震えるのに、コップを取ろうとすると止まる、という出方をします。ふたつめは、手を前に伸ばした姿勢を保つときに震えるタイプ。コップを持った手が揺れる、お盆を運ぶと中身がこぼれる、といった困り方です。みっつめは、字を書く、箸を使う、口元へ運ぶといった動作のときに震えるタイプになります。
診察室では、この三つの場面をひととおり作って、震えがどう変わるかを見ています。あわせて、腕の力を抜いていただいて関節の抵抗を確かめたり、指を素早く動かしていただいたり、歩くときの腕の振り方や表情を拝見したりします。紙に文字を書いていただいたり、渦巻きを描いていただいたりすることもあります。字が波打つのか、それとも書いているうちにだんだん小さくなっていくのか。こうした細かいところに、原因の手がかりが出てきます。特別な機械は使いませんし、痛みもありません。
本態性振戦とパーキンソン病は、どこが違うのでしょうか
「ふるえ=パーキンソン病」と思われている方が多いのですが、実際にはふるえの原因として頻度が高いのは本態性振戦のほうです。年齢とともに増え、ご家族にも同じような方がいらっしゃることがよくあります。海外の報告をもとにした有病率の数字はいくつかありますが、報告によって幅が大きく、日本人を対象にした大規模なデータは限られています。数字よりも「珍しい病気ではない」と受け取っていただくのが実際に近いと思います。
一方のパーキンソン病は、脳の中でドパミンという物質を作る神経細胞が少しずつ減っていく病気です。ふるえのほかに、動作が遅くなる、筋肉がこわばる、バランスが取りにくくなるといった変化が加わってきます。最初の症状としてはふるえが最も多く、片側から始まることがよくあります。肩の痛みで始まり、五十肩と思われていた、という方もいらっしゃいます。運動の症状より前に、便秘、においが分かりにくい、眠っているときに大きな寝言を言ったり暴れたりする、といった変化が出ていることもあります。
両者の違いを、外来でよくお話しする形で並べてみます。
| 見るポイント | 本態性振戦でよくある | パーキンソン病でよくある |
|---|---|---|
| 震えるとき | 手を伸ばしたとき、コップを持つとき、字を書くとき | 膝に手を置いて休めているとき、歩いているときの腕 |
| 動かすと | 目立つ、または変わらない | いったん止まる、軽くなることが多い |
| 左右差 | 両手に出ることが多い | 片側から始まることが多い |
| ふるえ以外 | 基本的にふるえのみ | 動作が遅い、歩幅が狭い、表情が乏しい、声が小さい |
| 頭や声 | 首の揺れや声の震えを伴うことがある | 手足やあごに出やすい |
| 家族歴 | 比較的多い | 多くはご家族にはみられない |
この表はあくまで目安です。本態性振戦でもじっとしているときに震えが出ることがありますし、パーキンソン病でも典型的でない出方をすることがあります。反対に、ふるえがまったくないパーキンソン病もあります。動作の遅さや歩幅の狭さ、表情の乏しさが先に目立つ場合です。ですから「震えていないから違う」とも言い切れません。ご自身やご家族だけで見分けるのは難しいとお考えください。
なお、パーキンソン病と診断されると将来を悲観される方が多いのですが、生命の予後は決して悪いものではなく、以前言われていたほど余命が大きく短くなるわけではないと考えられています。また指定難病に定められており、一定の条件を満たす場合には医療費の助成を受けられる仕組みもあります。
ふるえの原因は、脳の病気だけではありません
ふるえと聞くと脳を思い浮かべますが、実際には脳以外に原因があって、しかも対処できるものが隠れていることがあります。
代表的なのが甲状腺の働きが強くなりすぎる病気です。手を前に伸ばしたときに細かく速い震えが出て、動悸、汗が増える、体重が減る、暑がりになる、疲れやすいといった症状を伴いやすいのが特徴です。これは採血で確認でき、治療によって改善が期待できる原因の代表格です。女性に多く、決して珍しいものではありません。
もうひとつ見落としたくないのが、お薬の影響です。吐き気止めや胃腸のお薬、気分に関わるお薬など、いくつかの種類のお薬で、パーキンソン病によく似た症状が出ることがあります。高齢の方では「年のせい」と片づけられて見過ごされやすく、実はお薬を始めた時期と重なっていた、ということがあります。ただ、ここで大事なお願いがあります。思い当たるお薬があっても、自己判断で中止したり量を減らしたりしないでください。もとの病気が悪化することがあります。お薬手帳を持って、処方している医師か薬剤師にご相談ください。市販薬やサプリメントも、ぜひ一緒にお持ちいただければと思います。
疲れや寝不足、強い緊張、カフェインの取りすぎ、発熱などで、もともと誰にでもある細かい震えが目立ってくることもあります。ほかにも、小脳の病気、脳血管の病気、若い方での肝臓に関わる特殊な病気など、確認しておきたい原因がいくつかあります。ふるえのタイプを診察で分けたうえで、必要な検査を絞り込んでいく。検査をたくさん並べるためではなく、対処できる原因を見落とさないために調べる、というのが脳神経内科の考え方です。
受診の目安と、当院での調べ方
どのタイミングで相談すればよいのか、迷われる方が多いところです。次のような場面が出てきたら、一度確認しておくと安心です。
- 字が書きにくくなった、署名のときに困る
- 箸やスプーンが使いにくい、汁物や飲み物をこぼす
- 人前で手元が気になり、外食や会食を避けるようになった
- 片方の手から始まった、または動作が遅くなってきた
- ふるえ以外に、歩きにくさ、声の小ささ、表情の乏しさを指摘された
- 新しいお薬を始めてから、ふるえが出てきた
これは診断のためのチェックではありません。当てはまる数で病気が決まるものでもありません。相談するかどうかを決める目安として使っていただければと思います。
当院ではどのように調べていくか
初診では、まず問診をしっかり伺います。いつから、どちらの手から、どんなときに震えるのか。動作の遅さ、歩きにくさ、においの感じにくさ、便秘、寝言の有無。服薬の内容、飲酒やカフェインの量、ご家族のこと。そして、生活のどこで困っておられるか。ここが後の治療目標に直結します。
続いて神経の診察を行い、必要に応じて血液検査で甲状腺の働きや血糖、肝臓・腎臓の状態などを確認します。痛みを伴う検査から始めることはありません。
診察と神経学的な所見から、本態性振戦だけでは説明がつかないと判断した場合には、当院で頭部CTを撮影して確認しています。院内にCTがありますので、予約をお待ちいただくことなく、受診されたその日に確認できます。撮影は数分で終わり、狭いトンネルに長く入る必要もありません。被ばくについては、頭部CT1回の量は限られていますが、必要性を判断したうえで行っています。
CTは他の病気が隠れていないかを確かめるための検査であって、パーキンソン病かどうかをCTで判定するものではありません。本態性振戦もパーキンソン病も、画像に特有の異常が写るわけではないのです。またCTは、発症してまもない脳梗塞や、ごく小さな病変、小脳や脳幹といった部位の評価が苦手です。ですから「CTで異常なし」は「大きな問題は見当たらない」という意味であって、そこで話が終わるわけではありません。
より詳しく見る必要があると判断した場合は、連携している病院に頭部MRIをお願いしています。パーキンソン病との鑑別で参考になる特殊な検査(DaTスキャンや心臓の核医学検査)も、同じように連携先へご依頼します。いずれも検査をお願いするだけで、結果をもとに当院で引き続き診てまいりますので、そこはご安心ください。生活に支障が出ている場合や、診断が定まらない場合、経過が典型的でない場合には、高次の医療機関をご案内しています。
治療の考え方と、ご家族にできること
まず前提として、ふるえがある=すぐにお薬、ではありません。生活に支障がなければ、経過を見ていくのも十分に正当な選択です。治療の目標は、震えをゼロにすることではなく、困っている動作をできるようにすることだと考えています。お薬を使う場合も、効き方や副作用も人によって違います。持病や飲み合わせを含めて、一人ひとり相談しながら決めていきます。お薬で十分な効果が得られない重い症状の方には、公的医療保険が使える外科的な治療の選択肢もあります。実施できる施設は限られていますので、適応が考えられる場合には、行っている医療機関にご紹介します。
日常のなかでできる工夫もあります。カフェインの量やタイミング、睡眠不足の見直しで、震えが目立ちにくくなる方はいらっしゃいます。道具を変えるのも現実的です。少し重みのあるスプーンやフォーク、軸の太いペン、フタ付きのカップ、ストロー、滑り止めマット。コップは両手で持つ。こうした小さな工夫の積み重ねが、生活のしやすさをかなり変えます。
パーキンソン病では、リハビリテーションが治療の柱のひとつになります。大きく動く練習や、床の目印・音のリズムといった外からのきっかけを使う方法、そして転倒を防ぐための住環境の整備です。詳しくはパーキンソン病の転倒予防についての記事にまとめています。将来の治療として注目されているiPS細胞を使った研究の現状については、別の記事で解説しました。今すぐ誰でも受けられる治療ではありませんので、あわせてお読みいただければと思います。
まとめ
手のふるえで迷われたら、まず脳神経内科へ。ふるえの原因として多いのは本態性振戦で、パーキンソン病はその一部です。そして甲状腺の病気やお薬の影響のように、調べれば対処できる原因が隠れていることもあります。画像だけで白黒がつくものではなく、いつ震えるのかを診察で丁寧に確かめていくことが出発点になります。
年のせいだと片づけたくなる気持ちは、よく分かります。ただ、そのまま何年も一人で気にしておられる方が、外来には少なくありません。ご予約はウェブまたはお電話で承っています。お薬手帳をお持ちのうえ、お気軽にご相談ください。困っているところから、一緒に整えていきましょう。
引用文献・参考資料(クリックで開きます)
- 難病情報センター.「パーキンソン病(指定難病6)」. 令和6年4月情報更新. リンク
- 日本神経学会 監修.「パーキンソン病診療ガイドライン2018」. 医学書院, 2018年5月. リンク
- 日本神経治療学会 治療指針作成委員会.「標準的神経治療:本態性振戦」. 神経治療学. 2011;28(3):295-325. リンク
- Bhatia KP, et al. Consensus Statement on the Classification of Tremors, from the Task Force on Tremor of the International Parkinson and Movement Disorder Society. Mov Disord. 2018;33(1):75-87. doi:10.1002/mds.27121
- 国立長寿医療研究センター.「受診の目安:手の震え」. リンク
- 吉野聡, 山田正信.「バセドウ病治療ガイドライン2019」. 日本内科学会雑誌. 2022;111(11):2279-2284. PDF
※ 上記URLの最終確認日:2026年8月23日
※ 本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や薬の内容については、必ずかかりつけの医療機関にご相談ください。
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ふるえは、いつ震えるのかを診察で確かめることが出発点になります。日本神経学会認定 神経内科専門医が、問診と神経診察をもとに必要な検査を絞り込み、ご相談を承ります。お薬手帳をお持ちください。
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関連ページ:脳神経内科
この記事を書いた人
山下 泰治(やました たいじ)
うめもとクリニック 院長/医療法人三全会 理事長
愛媛大学医学部卒業。九州大学・愛媛大学の神経内科、愛媛医療センター、兵庫医科大学病院リハビリテーション科、松山リハビリテーション病院を経て、2022年より現職。もの忘れ・頭痛・しびれ・めまい・ふるえ・歩行障害の診療と、脳卒中後遺症のリハビリテーションを専門としています。
日本神経学会認定 神経内科専門医/日本リハビリテーション医学会認定 リハビリテーション科専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医
日本認知症学会認定 専門医/医学博士/難病指定医/身体障害者福祉法第15条指定医/臨床研修指導医
本記事は、上記の医師が執筆し、内容を確認しています。
公開日:2026年8月23日|最終更新日:2026年8月23日
