低気圧や台風で頭痛が悪化する理由と受診の目安を専門医が解説
9月に入っても、松山の空は落ち着きません。晴れていたのに午後から雨、翌日はまた蒸し暑い。台風や前線が行き来するこの時期になると、外来の相談内容も少し変わります。
「台風が近づくと、決まって頭が痛くなるんです」「低気圧のせいだと思うのですが、こんなことで病院に行ってもいいのでしょうか」。患者さんやご家族から、そうしたご相談をいただくことがあります。天気と頭痛の関係は、患者さんの実感が先を行き、研究が後から追いかけてきた分野です。この記事では、今どこまで分かっているのか、そして「気圧のせい」と思って我慢していると見逃されやすい頭痛について整理します。
この記事の要点
- 気圧が下がる時期に頭痛が増える方は、実際におられます
- 一方で、関連を認めなかった大規模研究もあり、影響には個人差があります
- 天気で悪化しやすいのは、主に片頭痛と緊張型頭痛の2種類です
- 突然の激しい頭痛や手足の麻痺があれば、天気とは無関係に119番です
- 原因を突き止めるより、記録して先に備えるほうが現実的です
- 片頭痛には飲み薬の予防薬と、CGRP関連の注射薬という選択肢があります
目次
台風や低気圧が近づくと頭が痛くなるのは、気のせいでしょうか
気のせいではなく、気圧が下がる時期に頭痛が増える方がいることは複数の研究で報告されています。
片頭痛の患者さん28人に1年間、頭痛ダイアリーをつけてもらった日本の研究では、翌日の気圧が5hPa以上低くなる日に発作が増えていました。28人のうち18人、64%が、天候の変化と頭痛に関連があると答えています。
2023年には、気圧予報アプリの記録を使った大規模な解析も報告されました。4,375人・336,951件の頭痛記録を調べたもので、気圧が低いこと、6時間前から気圧が下がっていること、湿度が高いこと、雨が降っていることが、頭痛の発生と関連していました。
ただ、2025年に発表された研究では、健康保険のデータで26,777人を追跡し、気圧の変動が大きい季節と片頭痛の発症に、明確な関連は認められませんでした。
気圧の変化が引き金になる人は確かにいますが、全員ではありません。影響の大きさも人によってかなり違います。外来でも、天気予報を見ればご自身の頭痛をだいたい言い当てられる方と、まったく関係のない方が、同じくらいおられる印象です。この違いを本人と一緒に見つけていくのが、脳神経内科での診療の出発点になります。
| 研究(発表年) | 調べ方 | 分かったこと |
|---|---|---|
| Kimoto ら(2011年) | 片頭痛28人・頭痛ダイアリー1年 | 翌日の気圧が5hPa以上下がる日に発作が増加 |
| Katsuki ら(2023年) | アプリ利用者4,375人・336,951件の記録 | 低い気圧、6時間前からの気圧低下、高い湿度、降雨が頭痛と関連 |
| Tatsumoto ら(2025年) | 健康保険データ26,777人 | 気圧変動の大きい季節と片頭痛発症に明確な関連なし |
どんな気圧の変化が、引き金になりやすいですか?
頭痛が増えやすいのは、気圧が下がっていく局面と、短い時間で大きく変動する局面だと報告されています。
台風でも前線でも、気圧は雨雲が来る前から下がり始めます。ですから体調が崩れるのは、雨のピークの日ではなく、その前日や当日の朝であることが多い。「まだ晴れているのに頭が痛い」という訴えは、決して不思議なものではありません。
逆に、通り過ぎて気圧が戻る局面で楽になる方もいます。松山市や東温市は海と山に挟まれた地形で、同じ日でも場所によって天気の崩れ方が違います。体感と予報がずれることがあるのは、そのためもあるでしょう。
内耳が関係している、という考え方
気圧の変化を感じ取るセンサーが内耳にあり、その情報が自律神経や三叉神経に伝わって痛みにつながる、という考え方が提唱されています。ただしこれはまだ仮説の段階で、人で確かめられたわけではありません。頭痛の診療ガイドラインでも、天候は片頭痛の誘発因子の一つとして挙げられていますが、しくみそのものは分からない部分が多く残っています。
ですから外来では、原因の解明よりも「あなたの場合はどのパターンで痛むのか」を一緒に見つけることを優先しています。
天気で悪化しやすい頭痛には、どんな種類がありますか
天気の影響を受けやすいのは主に片頭痛と緊張型頭痛で、この2つは対処法も予防の考え方も違います。
片頭痛は日本人の8.4%が持っているとされ、20〜40代の女性に多い頭痛です。脈打つように痛み、吐き気や光・音への過敏を伴い、階段の上り下りなどで悪化します。緊張型頭痛は頭全体が締めつけられるように痛み、肩や首のこわばりと一緒に出ることが多い。雨で外出できず、同じ姿勢が続く日に悪くなる方もおられます。
やっかいなのは、この2つが混ざっている方が少なくないことです。混在している場合、市販薬だけでは頭打ちになりやすく、どちらが主役かを見極めないと治療の方向が決まりません。詳しい違いは頭痛外来のご案内でも説明しています。
| 項目 | 片頭痛 | 緊張型頭痛 |
|---|---|---|
| 痛み方 | 脈打つように痛む | 締めつけられるように痛む |
| 場所 | 片側が多いが両側もある | 頭全体、後頭部から首 |
| 伴う症状 | 吐き気、光や音がつらい | 肩や首のこわばり、目の疲れ |
| 体を動かすと | 悪化する | 変わらない、または楽になる |
| 天気の崩れ | 下がる気圧で悪化しやすい | 姿勢や活動量の変化を介して悪化 |
もう一つ気をつけたいのが、頭痛薬の使いすぎで起こる頭痛です。鎮痛薬を月に10日以上飲む状態が続くと、薬そのものが頭痛を起こしやすくすることがあります。天気が崩れそうだから早めに、こまめに飲むという習慣は、この薬物使用過多による頭痛に近づく道でもありますので早めに受診が必要です。。
すぐに受診したほうがよいのは、どんなときでしょう
今までに経験したことのない突然の激しい頭痛は、天気のせいにしてはいけません。くも膜下出血などの可能性があり、救急対応が必要です。
緊急ではないものの、早めに受診していただきたい場合もあります。50歳を過ぎて初めて頭痛が出てきたとき、いつもの痛み方と明らかに変わったとき、朝方や咳・いきみで強くなるとき、がんの治療中や免疫を抑える薬を使っているとき。これらは天気とは別の原因を考える必要があります。
外来では、ご本人が「毎回同じ痛み方です」と言われるかどうかを重視しています。パターンが一定なら慢性の頭痛らしく、パターンが崩れたときこそ検査を考える。この線引きが、患者さんに最初にお伝えしていることでもあります。
天気が崩れる時期にできる備えは、3つあります
現実的にできるのは、記録する、気圧が下がる日に先回りする、薬を切らさない、の3つです。
原因探しよりも、記録して備えるほうが現実的です。3か月ほど記録がたまると、天気との関係が本当にあるのか、それとも睡眠不足や生理周期のほうが大きいのかが見えてきます。診察でも、記録を持ってきていただけると判断がかなり速くなります。
- 頭痛の日時、強さを10段階で、飲んだ薬と回数、その日の天気をメモする
- 気圧の変化を予報するスマートフォンのアプリを使い、下がる日を前もって知る
- 崩れる日は睡眠と食事の時間を一定にし、予定を詰め込みすぎない
- 片頭痛の急性期治療薬は、痛み始めのできるだけ早い段階で1回きちんと使う
- 台風や大雨で受診できない日に備え、お薬手帳と数日分の予備の薬を手元に置く
最後の項目は防災の話でもあります。雨や風が強い日に無理に車を出す必要がないよう、処方は残りが少なくなる前にご相談ください。受診前に症状を整理しておきたい方は、事前問診をご利用いただくと、当日の説明がスムーズになります。
当院での検査と、片頭痛の予防治療について
当院では問診と神経学的診察を中心に、必要と判断した場合は当日に頭部CTを撮影できます。
まず看護師が痛みのパターン、これまでの薬、既往歴をお聞きし、そのうえで診察を行います。危険な頭痛が疑われるときや痛み方が変わったときはCTで確認し、MRIが必要と判断した場合は連携医療機関の予約をお取りします。すべての頭痛に画像検査が必要なわけではなく、問診と診察でかなりの部分が絞り込めます。
あわせて当院ではHIT-6という6つの質問票を使い、頭痛が仕事や家事にどれくらい影響しているかを点数で見える化しています。36点から78点で評価し、50点以上の方には受診と治療の見直しをおすすめしています。「たかが頭痛」と我慢してきた方が、数字を見て初めて自分のつらさを認めるという場面は珍しくありません。
治療は、発作時に使う急性期治療薬と、発作を減らす予防薬を組み合わせます。予防薬にはロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸などの飲み薬があり、年齢や持病、妊娠の可能性によって選び分けます。加えて、CGRPという痛みに関わる物質のはたらきを抑える注射薬も保険で使えるようになりました。当院ではガルカネズマブ、フレマネズマブ、エレヌマブの3剤に対応しています。
この注射薬は、15歳以上で片頭痛と診断されていること、1か月あたりの片頭痛日数が平均4日以上あること、これまでの予防薬で効果が不十分または使用が難しいことなどが条件となります。従来の予防薬より費用は高くなり、3割負担では1か月あたり1万円台になることが多いのですが、金額は薬剤や薬価改定によって変わりますので、実際の負担額は診察時にお伝えします。注射部位の赤みやかゆみなどの副作用もあるため、効果と負担の両方を確認しながら継続の判断をしていきます。
はじめて受診される方は、初診案内もあわせてご確認ください。
よくあるご質問
Q. 台風や低気圧のときに頭が痛くなります。受診してもよいのでしょうか?
A. どうぞご相談ください。天気で悪化する頭痛の多くは片頭痛か緊張型頭痛で、どちらも治療の選択肢があります。天気のせいだと考えて何年も我慢してこられた方が、予防薬で生活の質が変わることも珍しくありません。
Q. 気圧の変化による頭痛にも、予防薬は使えますか?
A. 使えます。飲み薬の予防薬に加え、1か月あたりの片頭痛日数が平均4日以上で、これまでの予防薬では効果が不十分な場合には、CGRPのはたらきを抑える注射薬も保険で選べます。適応の判断は診察のうえで行います。
Q. 市販の頭痛薬を、雨の日だけ飲むのは問題ありませんか?
A. 回数が少なければ大きな問題にはなりません。ただし鎮痛薬を月に10日以上飲む状態が続くと、薬の使いすぎによる頭痛が起こることがあります。飲んだ日数を記録し、多いと感じたら一度ご相談ください。
Q. 天気で頭が痛くなるとき、画像検査は必要ですか?
A. 必ず必要というわけではありません。問診と診察で危険な頭痛が疑われる場合や、痛み方が変わった場合には、当院で頭部CTを撮影します。MRIが必要なときは連携医療機関の予約をお取りします。
