【院長ブログ】国産コロナワクチン「コスタイベ」〜12ヶ月持続する効果の秘密〜
秋も深まり、朝晩の冷え込みが一段と増してきました。松山市内でも、新型コロナウイルス感染症の流行が再び懸念される季節となっています。
当ブログで9月にコロナワクチンについてご案内した際、国産の新しいタイプのワクチン「コスタイベ」について簡単にご紹介させていただきましたが、その後患者さんやご家族から「コスタイベを接種したい」「従来のワクチンとどう違うのか」といったお問い合わせが増加しております。
こうしたご要望にお応えするため、予約制で2人単位でお申し込みいただける場合に限り、コスタイベの接種を受け付けることといたしました。
今回は、この「コスタイベ」について、国産ワクチンとしての特徴、従来型ワクチンとの違い、特に注目されている「12ヶ月間持続する効果」、そして最新の変異株への対応についてお伝えします。
コスタイベとは?〜世界初のレプリコンワクチンの基本知識〜
コスタイベ筋注用は、Meiji Seikaファルマ株式会社が開発した、世界で初めて実用化された自己増幅型mRNAワクチン(レプリコンワクチン)です。2023年11月に世界初の製造販売承認を取得し、2024年9月から接種が開始されました。
2025年度は、最新の変異株であるオミクロン株XEC(JN.1系統の派生株)に対応したワクチンとして供給されており、非臨床試験では、XECだけでなく、LP.8.1やXFG、NB.1.8.1といった現在流行している複数の変異株に対しても強い中和抗体の産生が確認されています。
従来のmRNAワクチン(ファイザー社のコミナティやモデルナ社のスパイクバックス)は、体内でスパイクタンパク質を作る設計図(mRNA)を届けることで免疫を獲得する仕組みでした。一方、コスタイベは「レプリカーゼ」という酵素の遺伝情報も含まれており、体内でmRNAが自己増幅するという革新的な技術を採用しています。
この自己増幅の仕組みにより、投与するmRNAの量は従来型ワクチンの約6分の1から20分の1という少量で済みます。多くの方が心配されるのですが、mRNAが体内で永久に増え続けるわけではなく、増幅は短期間に限定されており、安全性についても厚生労働省や独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の厳格な審査を経て承認されています。
接種対象者は18歳以上で、前回のコロナワクチン接種から少なくとも3ヶ月以上経過していることが条件となります。
コスタイベの最大の特徴〜12ヶ月間持続するメカニズム〜
コスタイベが医療関係者や患者さんから注目されている最大の理由は、従来型ワクチンと比較して効果が長期間持続するという点です。
Meiji Seikaファルマ社が2024年11月に発表した最新の臨床試験データによれば、コスタイベを接種した群では、接種後12ヶ月間にわたり高い中和抗体価が維持されることが確認されました。この研究結果は、世界的権威のある医学誌『The Lancet Infectious Diseases』(2024年10月)にも掲載されており、国際的にも認められたエビデンスとなっています。
具体的な数値を見てみましょう。50歳以上の方では、従来型mRNAワクチンと比較して約2.0倍、50歳未満では約1.68倍の中和抗体価を示しました。従来型mRNAワクチンでは接種後3ヶ月目から抗体価が低下し始めるのに対し、コスタイベでは高いレベルを維持し、12ヶ月後の時点でも有意に高い抗体価が保たれていたのです。
この長期持続性の秘密は、自己増幅型mRNAの特性にあります。体内でmRNAが一時的に複製されることで、少ない初期量でもスパイクタンパク質が継続的に産生され、免疫細胞が長期間にわたってトレーニングされるためと考えられています。接種後2日目から1週間程度は接種部位でのmRNA濃度が高く維持されますが、これは接種直後のmRNA濃度を超えるものではなく、安全な範囲内での作用です。
脳神経内科医の視点から申し上げますと、高齢者や基礎疾患を持つ方にとって、長期間効果が持続するワクチンは非常に意義があります。新型コロナウイルス感染症は、重症化すると脳梗塞、認知機能障害、ギラン・バレー症候群などの神経合併症を引き起こすリスクがあるため、年1回の接種で長期的な予防効果が期待できる点は大きなメリットといえるでしょう。
2025年度のコスタイベ〜最新変異株への幅広い効果〜
新型コロナウイルスは数ヶ月ごとに変異を繰り返しており、2025年度のワクチンは、最新の流行株に対応することが求められています。
2025年度に供給されているコスタイベは、オミクロン株JN.1系統の変異株であるXEC株に対応した設計となっていますが、特筆すべきは、XECだけでなく複数の変異株に対して効果が期待できるという点です。
非臨床試験の結果では、XEC対応のコスタイベは以下の変異株に対して中和抗体を産生することが確認されています。
JN.1株(2024年冬から春にかけて流行した株)、XEC株(2025年冬に主流となった株)、LP.8.1株(2025年度ワクチンのもう一つの対応株)、XFG株およびNB.1.8.1株(現在流行している株)といった幅広い株に対応しています。
日本感染症学会が2025年9月に発表した「COVID-19ワクチンに関する提言(第11版)」でも、XEC対応コスタイベの有効性が評価されており、変異を繰り返すオミクロン株に対して、幅広い交差免疫が期待できるとしています。
これは、ワクチンの抗原設計が優れているだけでなく、レプリコンワクチンの特性として、体内で長期間にわたって抗原が提示されることで、より頑健な免疫応答が形成されるためと考えられています。
実際、2025年度に厚生労働省が定めた新型コロナワクチンの選定基準では、「JN.1、KP.2若しくはLP.8.1に対する抗原又は現在流行しているJN.1系統変異株に対して、広汎かつ頑健な中和抗体応答又は有効性が示された抗原」とされており、コスタイベはこの基準を満たすワクチンとして承認されています。
安全性について〜市販直後調査の結果から〜
新しいタイプのワクチンということで、安全性を心配される方も多いかと思います。ここでは、2025年5月に公表された市販直後調査の最終結果をもとに、実際の安全性データをお伝えします。
コスタイベは2024年9月30日から2025年3月29日までの6ヶ月間、厳格な市販直後調査が実施されました。この期間中に収集されたデータによれば、副反応として最も多かったのは以下の症状でした。
非重篤な副反応として、注射部位の疼痛(痛み)が848件で最も多く、次いで発熱321件(うち2件のみ重篤)、倦怠感308件が報告されています。これらはいずれも、従来のmRNAワクチンでも見られる一般的な反応です。
重篤な副反応については、調査期間中に8例11件が報告されましたが、その多くは既知の副反応であり、予測可能な範囲内でした。特に重要なのは、アナフィラキシー、心筋炎、ギラン・バレー症候群といった重大な副反応は報告されなかったという点です。
約18,000人に接種された臨床試験データと合わせて考えると、コスタイベの安全性プロファイルは従来型mRNAワクチンとおおむね同等であり、特別に危険性が高いというものではないことが確認されています。
ただし、医薬品である以上、個人差によって副反応が生じる可能性はあります。接種後は15分〜30分程度の経過観察が必要であり、当院でも必ず院内で経過を見させていただいております。
また、副反応の発生頻度については、他のワクチンと比較すると、モデルナよりもファイザーや国産ワクチン(コスタイベ、第一三共のダイチロナ)の方が、発熱や倦怠感などの全身症状が少ない傾向にあるという報告もあります。
どんな方にコスタイベが適しているか〜接種を考えるポイント〜
コスタイベは18歳以上のすべての方が対象ですが、特に次のような方には接種のメリットが大きいと考えられます。
まず、高齢者の方や基礎疾患をお持ちの方です。長期間の免疫持続が期待できるため、年1回の定期接種で効果的に予防できる可能性があります。65歳以上の方、また60〜64歳で心臓・腎臓・呼吸器の機能に障害がある方は、定期接種の対象となっており、公費助成も受けられます。
次に、頻繁に接種することが難しい方です。仕事や家庭の事情で定期的な医療機関受診が困難な方、遠方にお住まいで医療機関へのアクセスが限られている方などにとって、長期持続型のワクチンは利便性が高いといえます。また、副反応で仕事を休むことが難しい方にとっても、年1回の接種で済む可能性があることはメリットでしょう。
また、最新の変異株への対応を重視される方にも適しています。XEC株をはじめ、複数の変異株に対して交差免疫が期待できるため、ウイルスの変異に対してもある程度の防御が見込めます。
ただし、以下のような方は接種前に必ず医師にご相談ください。
過去にワクチン接種で接種後2日以内に発熱や全身性の発疹などのアレルギー反応を起こしたことがある方、ワクチンの成分に対してアレルギーがある方、抗凝固療法を受けている方、血小板減少症や凝固障害のある方、免疫機能に異常のある方などです。
妊婦の方については、主治医との相談が必要ですが、日本産科婦人科学会は妊婦への新型コロナワクチン接種を推奨しています。特に31歳以上の方、妊娠21週以降の方は接種が強く推奨されていますが、コスタイベについては担当の産科医にご相談の上、判断されることをお勧めします。
うめもとクリニックでの接種体制について
当院では、患者さんからのご要望にお応えするため、2025年度からコスタイベの接種を開始いたしました。当院で取り扱っているのは2人用バイアル製剤となりますので、接種は予約制で、2人単位でお申し込みいただける場合に受け付けております。ご家族、ご友人、職場の同僚など、お誘い合わせの上でお申し込みください。
お電話にてご予約いただく際、以下の点をお伝えください。
まず、前回のコロナワクチン接種日をご確認ください。3ヶ月以上経過していることが必要です。次に、基礎疾患の有無や現在服用中の薬があればお知らせください。そして、接種を希望される人数をお伝えください。2人単位でのお申し込みをお願いしております。
当院では、脳神経内科専門医として、神経系の基礎疾患をお持ちの方、脳卒中後の方、パーキンソン病などの神経難病の方の接種についても、安全性を考慮しながら対応しております。過去にワクチン接種で何らかの問題があった方、アレルギー体質の方なども、事前にご相談いただければ、個別に対応を検討させていただきます。
接種当日は、接種後15分〜30分程度、院内で経過観察をさせていただきます。まれではありますが、アナフィラキシーなどの即時型アレルギー反応に備えるためですので、ご協力をお願いいたします。また、接種後数日間は、激しい運動を避け、十分な休養をとることをお勧めしています。
まとめ〜国産ワクチンで年1回の確実な予防を〜
今回は、国産初のレプリコンワクチン「コスタイベ」について、2025年度の最新情報を含めて詳しくお伝えしました。
新型コロナウイルス感染症は、特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方にとって、依然として重症化のリスクがある疾患です。2025年度からは定期接種として位置づけられ、年1回の接種で重症化予防を図るという方針になっています。コスタイベの長期持続性は、この年1回接種という方針に最も適したワクチンの一つといえるでしょう。
当院では、患者さん一人ひとりの健康状態や生活背景、ワクチンに対するお考えに配慮しながら、最適な予防接種をご提案しております。松山市、東温市、砥部町周辺にお住まいの皆様、コスタイベの接種をご希望の方、ワクチンについてご不明な点がある方、どのワクチンを選べばよいか迷っている方は、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
私たちは「全ての人」に「最善のケア」を提供するという理念のもと、地域の皆様の健康を支えてまいります。一緒に、新型コロナウイルス感染症から身を守り、安心して日常生活を送れる日々を目指していきましょう。
【引用文献】
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Meiji Seikaファルマ株式会社「新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン(レプリコン)『コスタイベ筋注用(2人用)』新発売のお知らせ」プレスリリース、2025年9月26日 https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2025/detail/pdf/250926_01.pdf
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Meiji Seikaファルマ株式会社「新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)『コスタイベ筋注用』の免疫原性が接種後12カ月間持続することを確認」プレスリリース、2024年11月19日 https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2024/detail/pdf/241119_01.pdf
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Meiji Seikaファルマ株式会社「『コスタイベ筋注用』の市販直後調査 最終結果報告」2025年5月27日 https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/meiji-rep/for-media/common/files/result_report_final.pdf
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厚生労働省「新型コロナワクチンの接種について」2025年8月29日 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001566433.pdf
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厚生労働省「2025/26シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給について」2025年8月28日 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001551207.pdf
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日本感染症学会「COVID-19ワクチンに関する提言(第11版)」2025年9月 https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2509_covid-19_11.pdf
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独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「コスタイベ筋注用 コスタイベ筋注用(2人用) に係る医薬品リスク管理計画書」2025年8月29日 https://www.pmda.go.jp/RMP/www/780009/
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The Lancet Infectious Diseases(学術専門誌), 2024年10月7日掲載論文
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日本産科婦人科学会「妊婦に対する新型コロナウイルスワクチン接種について」
