【院長ブログ】2025年夏の新型コロナウイルス感染症「カミソリを飲んだような喉」の正体と治療について解説
暑い日が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。最近、新型コロナウイルス感染症の感染者数が再び増加傾向にあり、特に新しい新型コロナウイルス変異株「ニンバス(NB.1.8.1)」による特徴的な症状が注目されています。今回は、この変異株の特徴や「カミソリを飲み込んだような強烈なのどの痛み」と表現される激痛の正体、治療法について詳しく解説いたします。
現在の流行状況:なぜ再び感染拡大が起きているのか
厚生労働省の最新データ(2025年第32週:8月4日~8月10日)によると、全国の定点医療機関からの報告では1医療機関当たり6.13人の新型コロナウイルス感染者が確認されました。前週の5.53人から1.11倍に増加し、8週連続で増加傾向が続いています。
愛媛県では定点当たり5.03人と全国平均(6.13人)よりもやや低い水準ですが、前週の3.89人から増加しており、県内でも感染拡大の傾向が見られています。
夏の感染拡大の背景には、エアコンの使用による密閉空間での長時間滞在、夏休みやお盆での人の移動・集まりの増加、暑さによる免疫力の低下などが考えられます。「新型コロナは冬だけの病気」という誤解がありますが、実際には年2回(冬と夏)の流行パターンが定着しています。
ニンバス(NB.1.8.1)の正体:世界を席巻する新変異株の特徴
現在世界的に注目されているのが、新型コロナウイルス変異株ニンバス(NB.1.8.1)と呼ばれる新しい変異株です。この変異株は2025年1月に初めて検出され、2025年5月にはWHO(世界保健機関)によって「監視下の変異株(VUM:Variants Under Monitoring)」に指定されました。
国立健康危機管理研究機構(JIHS)の7月データによると、ニンバス株が国内感染の約4割を占めており、この新たな変異株の影響も感染拡大の一因となっています。ニンバス株はオミクロン系統XDV.1.5.1から派生した変異株で、従来の変異株と比較して感染力が強いことが特徴です。ただし、感染力は強いものの、重症化率については従来株と大きな差はないとされており、適切な対策により重症化は防ぐことができます。
「カミソリを飲み込んだような強烈なのどの痛み」の理由
ニンバス株の最も特徴的な症状として、「Razor Blade Throat(カミソリのような喉の痛み)」と表現される激しい咽頭痛があります。患者さんからは「飲み込むたびに喉をカミソリで切られるような痛み」「唾液を飲み込むのも辛い」といった訴えが多く聞かれます。
この激痛のメカニズムは、ウイルス自体による直接的な組織破壊ではなく、ウイルスに対する免疫反応によるものです。ニンバス株は上気道の細胞表面にあるACE2受容体に強く結合し、従来株よりも上気道への組織親和性が高いことが分かっています。これにより、咽頭や喉頭部で強い炎症反応が引き起こされ、激しい痛みが生じるのです。
症状は通常、感染から2-3日後に現れ、適切な治療により5-7日程度で改善することが多いですが、症状が続く間は嚥下困難や発話困難を伴うことがあり、日常生活に大きな影響を与えます。
症状と診断:見逃してはいけない症状と早期診断の重要性
ニンバス株による感染では、激しい咽頭痛以外にも様々な症状が現れます。主な症状には、発熱(37.5℃以上)、強い倦怠感、乾いた咳、筋肉痛、鼻水・鼻づまりなどがあります。
診断においては、細菌性咽頭炎や急性扁桃炎との鑑別が重要です。症状だけでの判断は困難なため、PCR検査による正確な診断が不可欠です。抗原検査と比較して、PCR検査は約2倍の感度を持っており、より確実な診断が可能です。当院では、多病原体同時検出PCR(BioFire SpotFire Rパネル)を導入しており、わずか15分で15種類の病原体を同時に診断することができます。これにより、新型コロナウイルス感染症だけでなく、インフルエンザやその他の呼吸器感染症との鑑別も迅速に行えます。
最新治療薬の詳細解説:2025年の新型コロナウイルス感染症の治療薬
2025年現在、日本で使用可能な新型コロナウイルス感染症の治療薬3つです。
ゾコーバ®(エンシトレルビル)
国産初の経口治療薬で、重症化リスクに関わらず使用可能です。用法は初日3錠、2-5日目各1錠の5日間投与です。2025年3月27日には曝露後予防の適応追加申請が行われており、今後は予防薬としての使用も期待されています。
ラゲブリオ®(モルヌピラビル)
2025年2月26日に通常承認を取得し、2025年5月21日には新たに錠剤が追加発売されました。従来のカプセル剤と比較して服用しやすくなり、薬物相互作用が最も少ないことが特徴です。
パキロビッドパック®(ニルマトレルビル/リトナビル)
最も強力な重症化抑制効果を持つ治療薬ですが、併用禁忌薬が多いため、服用中の薬剤との相互作用に十分な注意が必要です。
激痛への対処法:つらい喉の痛みを和らげる効果的な方法
「カミソリを飲み込んだような強烈なのどの痛み」に対しては、以下のような対処法が効果的です。
推奨される対処法として、 NSAIDs(ロキソニンなど)の内服が最も効果的なようです。市販の喉スプレーやトローチも痛みの軽減に有効なことがあります。冷たい食品(アイスクリーム、シャーベットなど)も症状緩和に役立つようです。
注意すべき対処法として、抗生物質は細菌感染ではないため効果がありません。ステロイド薬の安易な使用も避けるべきです。また、過度な咽頭マッサージは炎症を悪化させる可能性があります。
家庭でのケアとして、十分な水分摂取を心がけ、プリン、ゼリー、スープなどの軟らかい食品を選択しましょう。室内の適切な加湿(50-60%)も重要です。
重症化リスクと注意すべき患者さんとは
特に注意が必要な高リスク群には、65歳以上の高齢者、糖尿病・慢性腎臓病・心血管疾患などの基礎疾患を持つ方、免疫不全状態の患者さん、ワクチン未接種または接種回数不足の方が含まれます。
年代別の重症化率をみると、70代では30代の47倍、80代では30代の71倍となっており、高齢になるほどリスクが高くなります。
ワクチン接種の最新情報
2025-2026年シーズンのワクチンについて、ファイザー社製ワクチンが2025年8月8日に承認を取得しました。ニンバス株に対しても効果を維持しており、重症化予防効果は継続しています。
接種推奨対象は65歳以上の高齢者、12-64歳で基礎疾患のある方です。当院では個別接種に対応しており、基礎疾患の管理と併せて接種を行っています。
日常生活での感染対策
基本的感染対策の継続が最も重要です。場面に応じたマスク着用、定期的な換気(エアコン使用時も重要)、手洗い・手指消毒の励行、咳エチケットの実践を心がけましょう。
夏季特有の注意点として、エアコンによる密閉空間対策、旅行・レジャー時の注意、熱中症対策との両立が重要です。会食、混雑した公共交通機関などの利用時は特に注意が必要です。
まとめ
これからも暑い日が続きますが、適切な予防策と早期対応により、健康な夏をお過ごしいただけるよう、うめもとクリニックスタッフ一同、皆さまの健康をサポートしてまいります。ご不明な点やご心配なことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
引用文献
1. 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について. 2025年8月15日.
2. World Health Organization. Tracking SARS-CoV-2 variants. WHO, 2025.
3. CDC. COVID-19 Variant Proportions. Centers for Disease Control and Prevention, 2025.
4. 愛媛県. 新型コロナウイルス感染症の感染状況(2025年). 2025年8月.
5. 塩野義製薬. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「ゾコーバ」曝露後予防適応追加申請について. 2025年3月27日.
6. MSD. 新型コロナウイルス感染症 経口治療薬「ラゲブリオ®」錠剤発売について. 2025年5月21日.
