院長ブログ:帯状疱疹ワクチン接種で認知症予防の可能性~最新研究からわかる予防効果と接種方法~
みなさま、こんにちは。松山市も少しずつ暖かくなり、春の訪れを感じる季節となりましたが、朝晩の寒暖差にはまだ注意が必要です。今回は多くの患者様から質問をいただいている「帯状疱疹ワクチンと認知症予防の関係」について、最新の研究結果をもとにご紹介します。高齢化社会において認知症予防は非常に重要なテーマですが、意外にも帯状疱疹ワクチンがその一助となる可能性が示唆されています。
帯状疱疹と認知症の意外な関係~最新研究が示す両者のつながり~
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる病気です。子どもの頃に水ぼうそう(水痘)として感染したウイルスが、体内に潜伏し、免疫力の低下などをきっかけに再活性化することで発症します。痛みを伴う特徴的な発疹が現れ、特に高齢者では強い痛みが長期間続くことも珍しくありません。
最近の研究によると、この帯状疱疹と認知症には意外な関連があることがわかってきました。最近のスコーピングレビュー(複数の研究結果を体系的に分析する手法)では、帯状疱疹ウイルスの罹患が認知症発症の危険因子となる可能性が示唆されています。特に、眼部や中枢神経での感染が認知症発症率を顕著に高めるという複数の報告があります。
また、「Alzheimer's Research & Therapy」誌に掲載された観察研究では、帯状疱疹に一度でも罹患した人は、そうでない人と比べて長期的な混乱や記憶喪失のリスクが20%も高かったことが報告されています。これらの研究結果は、帯状疱疹が単なる皮膚疾患ではなく、脳の健康にも影響を及ぼす可能性を示しています。
言い換えれば、帯状疱疹を予防することが、将来の認知症リスクを下げることにつながる可能性があるのです。
新型帯状疱疹ワクチン「シングリックス」の効果とは?
帯状疱疹ワクチンには主に2種類あります。以前から使用されてきた「生ワクチン(ビケン)」と、「不活化ワクチン(シングリックス)」です。日本でも「シングリックス」の使用が広がりつつありますが、この新型ワクチンには思わぬ効果があるかもしれません。
オックスフォード大学の研究チームが「Nature Medicine」誌に発表した研究結果によると、シングリックスを接種した人は、従来のワクチンを接種した人と比較して、認知症のリスクが低減する可能性が示されました。具体的には、シングリックスを接種した人は、6年間の追跡期間中に認知症診断を受けずに過ごせる期間が17%延長(約164日分)したというのです。
また、別の研究では、帯状疱疹ワクチン接種によって7年間のフォローアップ期間中に新たな認知症診断の確率が約20%も相対的に減少したことが示されています。これらの結果は、帯状疱疹ワクチンが単に帯状疱疹を予防するだけでなく、認知症の予防または発症の遅延にも寄与する可能性を示唆しています。
ただし研究者たちは、これらの観察研究だけでワクチンが直接認知症リスクを低減させると結論づけることはできないとも注意しています。今後、より詳細な臨床試験が必要とされています。
帯状疱疹ワクチン接種のタイミングと対象者~どんな人に推奨されるのか~
帯状疱疹ワクチンはどのような方に推奨され、いつ接種するのが最適なのでしょうか。日本での現状と推奨事項についてご説明します。
日本では、50歳以上の方に帯状疱疹ワクチン接種が推奨されています。これは加齢とともに帯状疱疹の発症リスクが高まるためです。特に、これまでに水ぼうそう(水痘)に罹ったことがある方は、体内にウイルスが潜伏している可能性があり、免疫力が低下するとともに帯状疱疹を発症するリスクが高まります。
現在、日本で使用されている帯状疱疹ワクチンには、生ワクチンである「ビケン」と不活化ワクチンである「シングリックス」があります。特に「シングリックス」は、2回の接種(2回目は初回から2〜6ヶ月後)が必要ですが、予防効果が高いことが知られています。
また、以下のような方々は特に帯状疱疹ワクチンの接種をご検討いただきたい対象です
・65歳以上の高齢者 ・慢性疾患(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患など)をお持ちの方 ・ストレスの多い生活を送っている方 ・過去に帯状疱疹を経験された方(再発予防として) ・家族に認知症の方がいるなど、認知症リスクが気になる方 |
ただし、妊娠中の方や特定の免疫不全状態にある方、ワクチンの成分にアレルギーがある方などは接種できない場合があります。接種前には必ず医師にご相談ください。
帯状疱疹ワクチン接種ガイド~費用・手続き・接種場所~
帯状疱疹ワクチンを接種したい方のために、具体的な情報をご案内します。当院では帯状疱疹ワクチン接種を実施しており、自費と一部補助のある定期接種どちらも対応しています。松山市では令和7年(2025年)4月1日から帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まります。対象となるのは主に年度内に65歳を迎える方です。また経過措置として令和7年度から令和11年度までの5年間は、年度内に70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳を迎える方も対象となります。
接種費用については、自費の場合、生ワクチンの「ビケン」は1回の接種で8,800円、不活化ワクチンの「シングリックス」は1回あたり約22,000円(2回接種が必要なため、合計44,000円)となっています。特定の年齢の方の接種費用は一部を助成される予定となっております。助成内容が公表されましたら当ブログでもお知らせ致します。
接種を希望される場合は、まず当院に電話でお問い合わせください。来院後、予診票には、過去の病歴やアレルギーの有無などを記入していただきます。接種当日は、体調が良好であることを確認した上で接種を行います。接種後は約15〜30分程度、院内で経過観察をさせていただきます。
「シングリックス」を選択される場合は、2回目の接種日程も同時に予約されることをお勧めします。最適な予防効果を得るためには、規定の間隔(2ヶ月後)での2回接種が重要です。
また、松山市内の他の医療機関でも帯状疱疹ワクチン接種を実施している場所がありますので、お住まいの地域やご都合に合わせてお選びいただくことも可能です。当院では予約状況や在庫状況などもお電話でお知らせしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ:帯状疱疹ワクチンで二重の健康対策を
今回は帯状疱疹ワクチンと認知症予防の関連についてご紹介しました。帯状疱疹自体は高齢者の方々にとって大変つらい疾患であり、その予防だけでも十分にワクチン接種の価値はあります。さらに認知症予防の可能性という付加的なメリットを考慮すると、特に50歳以上の方々は帯状疱疹ワクチンの接種を前向きに検討される価値があるでしょう。
当院では患者様一人ひとりのライフスタイルや健康状態、ご希望に合わせたアドバイスを行っております。帯状疱疹ワクチン接種についてご質問やご不安なことがありましたら、どうぞお気軽に診察時にご相談ください。
引用文献
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