院長ブログ:今年も暑い日が多いそうです~多汗症その②~
多汗症について
高温多湿が続きますが、体調など崩されておりませんでしょうか。梅雨から夏にかけて、気温と湿度が上昇するこの時期、汗の悩みを抱える方も多くなります。特に、過剰に汗をかく「多汗症」でお悩みの方にとっては、最も辛い季節かもしれません。以前にこのブログの中で取り上げた多汗症の薬剤の記事を見られて、最近来院される患者さん多くなっており、改めて「多汗症」の概要についてまとめておきたいと思います。
多汗症とは
多汗症は、必要以上に汗をかく状態を指します。日常生活に支障をきたすほどの過剰な発汗が特徴で、患者さんの生活の質(QOL)を著しく低下させることがあります。多汗症は、体全体から過剰に汗をかく全身性と、特定の部位(脇の下、手のひら、足の裏、顔面など)から過剰に汗をかく局所性に分けられます。
多汗症の原因
多汗症の原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が考えられています:
1. 遺伝的要因 2. 自律神経系の過剰反応 3. 内分泌系の異常 4. 精神的ストレス 5. 他の疾患の症状(甲状腺機能亢進症、糖尿病など) |
多くの場合、これらの要因が複合的に作用して多汗症を引き起こすと考えられています。また、先述の通り、気温や湿度の上昇も症状を悪化させる要因となります。
多汗症の症状
多汗症の主な症状は、もちろん過剰な発汗です。しかし、その影響は単に「汗をかく」ということにとどまりません。患者さんは以下のような悩みを伴い、社会生活や仕事、人間関係に大きな影響を与えることがあります。
1. 衣服の汚れや臭い 2. 握手や人との接触を避けたくなる 3. 書類や電子機器を扱う際の困難 4. 自信の喪失や社会不安 5. 皮膚トラブル(細菌感染や湿疹など) |
多汗症の診断
多汗症の診断には診断基準を用います。日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン」(2021年改訂版)の原発性局所多汗症の診断基準は以下の通りです[1]
1. 局所的に目に見える過剰な発汗が6ヶ月以上持続している
a) 両側性かつ左右対称性である
3. 二次性の原因が除外できる |
これらの基準を満たす場合、原発性局所多汗症と診断されます。なお、3にある通り、他の疾患を除外するための血液検査や画像検査を行うこともあります。これらの基準を完全に満たさない場合でも、症状の程度や生活への影響を考慮して総合的に判断します。
多汗症の重症度評価には、HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)というスケールがよく使用されます。これは患者さん自身が症状の程度を4段階で評価するものです[2]。
多汗症の重症度評価:HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale) 1. 汗は気にならず、日常生活に支障はない |
HDSSスコアが3または4の場合、治療が必要な多汗症と判断されます。これらの診断基準や重症度評価を参考にしながら、個々の患者さんの状態を詳しく評価し、最適な治療方針を決定していきます。
多汗症の治療法
多汗症の治療法は、症状の程度や部位によって異なります。主な治療法には以下のようなものがあります。
1. 局所治療
外用(塗り薬):塩化アルミニウムや抗コリン薬を含む製剤を使用します。最初に試みられることが多いです。各薬剤の詳細はこちら
2. 内服薬
抗コリン薬:神経伝達物質の作用を抑え、発汗を減少させます。口の渇き、便秘などの副作用があります。
3. ボツリヌス毒素注射
汗腺の周りの神経末端を一時的に麻痺させ、発汗を抑制します。腋窩多汗症は最近保険適応となりました。
4. 手術療法
胸部交感神経切除術:重症例に対して行われることがあります。
局所的汗腺切除術:脇の下の多汗症に対して行われることがあります。
日常生活での対策
医療的な治療と並行して、日常生活での対策も重要です。
1. 衣類の選択:通気性の良い素材を選び、汗を吸収しやすい下着を使用する。 2. 制汗剤の使用:市販の制汗剤を適切に使用する。 3. 食生活の見直し:辛い食べ物やアルコールなど、発汗を促進する食品を控える。 4. ストレス管理:ストレスを軽減する方法やその原因などの対策を行う。 5. 清潔保持:こまめに着替えや入浴を行い、皮膚を清潔に保つ。 |
多汗症と向き合うために
多汗症は生命を脅かす病気ではありませんが、患者さんのQOLに大きな影響を与えます。しかし、適切な治療と対策により、症状を改善できる可能性がありますので、気になる方は一度病院で相談することをおすすめします。多汗症は恥ずかしい病気ではありません。私たちは、患者さんが積極的に治療に取り組み、充実した生活を送って頂くことを願っています。
多汗症でお悩みの方、ご不安な点がある方は、どうぞお気軽にうめもとクリニックにご相談ください。
引用文献
[1] 日本皮膚科学会. (2021). 原発性局所多汗症診療ガイドライン 2021年改訂版.
[2] Solish, N., Bertucci, V., Dansereau, A., et al. (2007). A comprehensive approach to the recognition, diagnosis, and severity-based treatment of focal hyperhidrosis: recommendations of the Canadian Hyperhidrosis Advisory Committee. Dermatologic Surgery, 33(8), 908-923.