院長ブログ:新しい認知症治療薬「レカネマブ」
今回は新しい認知症治療薬「レカネマブ」についてご紹介します。認知症の新薬としてはおよそ10年ぶりに承認されたもので、ニュースなどで報道されており、患者様やご家族、介護される方の間では期待が高まっているかもしれませんね。
レカネマブの効果と承認に至った理由
アメリカのバイオジェン社と日本のエーザイ社が共同開発した新薬で、アミロイドベータの可溶性および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体製剤です。かみ砕いて説明すると、アルツハイマー型認知症の原因のひとつされる神経細胞に沈着する異常なタンパク質「アミロイドβ」に結合する抗体で、この抗体が脳内に蓄積しているアミロイドβと結合し、アミロイドβの分解・除去を促す働きをします。お薬として従来からある、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなどの治療薬はアミロイドβなどが沈着して結果的に減少するコリン作動性細胞から分泌されるアセチルコリンの減少を補うことで効果を期待されていましたが、レカネマブはアミロイドβの蓄積を抑えるという認知症の原因に近い部分に働きかけるものです。アルツハイマー型認知症の治療において新たな選択肢ができたことは、非常に喜ばしいことと思います。
レカネマブの投与対象と制限事項
報道にある通り、レカネマブ投与対象はアルツハイマー型認知症の早期、またはとその前段階のMCI(軽度認知障害)の方で、かつアミロイドβの脳内蓄積が確認された場合に限定されています。アミロイドβの蓄積の確認は、現時点で陽電子放出断層撮影(PET検査)あるいは脳脊髄液検査の2種類が想定されています。投与方法としては2週間に1回点滴治療を1年半受けることと、投与施設としても定期的に頭部画像検査を行えることとなっています。また、副作用として抗体が血管壁からアミロイドβを除去した際に、血管壁からにじみ出た血液の液体成分で脳組織がむくんだり、血管から出血することがあるため、副作用が出現した際には速やかに入院できる体制が求められています。
適応条件や施設条件からみて当院で一貫してレケンビの投与ができるかは不明です。連携する施設へのご紹介も含め、今後も情報収集に努め認知症の治療の選択肢のひとつとして患者様と共に考えていきたいと思っています。
まとめ
以上、レカネマブについて簡単にご説明しました。最後にお伝えしておきたいことは、レカネマブも「認知症を治す薬」ではないので、過剰な期待は避けた方が良さそうです(過去の臨床試験で得られた効果はご本人やご家族が改善を実感できるレベルではないようです)。認知症の治療の選択肢のひとつと捉え、その他の薬物療法やリハビリテーション、介護保険サービスの利用、介護されているご家族のケアなど、包括的に患者様を支える体制が大切です。また、高血圧や糖尿病、心不全など身体疾患の悪化によって活動が制限され、結果的に認知症が進行する方もいらっしゃいますので、内科的管理や日中の活動の場を作るなど環境調整も重要となります。
うめもとクリニックでは、レカネマブについて情報収集しつつ、これまでと同様に認知症の診断や薬物療法、リハビリテーションの提供は継続して行って参ります。認知症に関するお悩みやご相談がありましたら、お気軽にご相談ください。