院長ブログ:適切な睡眠時間で認知症リスクを減らす - 40代からの予防習慣
皆様、こんにちは。今回は睡眠と認知症の関係についてお話しします。私は診察室で患者さんに、「よく眠れていますか?」という質問を意識して行っています。何故かというと、睡眠は私たちの脳の健康に深く関わっており、40代から適切な睡眠習慣を身につけることが将来の認知症リスクを下げる鍵となるからです。今回は、睡眠時間と認知症の関係、そして40代から始められる効果的な予防習慣についてご紹介します。
睡眠時間と認知症リスクの意外な関係 - 長すぎても短すぎても危険?
「十分な睡眠をとりましょう」とよく言われますが、「十分」とはどのくらいなのでしょうか?国立がん研究センターの調査によると、睡眠時間が7時間の人と比べて、9時間の人では13%、10〜12時間の人では40%も認知症リスクが高くなることが明らかになっています。意外なことに、睡眠時間が長すぎることは、認知症のリスクを大きく高める可能性があるのです。
一方で、短すぎる睡眠時間(3〜5時間)の人も認知症リスクが13%高くなることが分かっています。また、5年間で睡眠時間が2時間以上長くなった人では認知症リスクが37%高くなり、7時間未満だった人が2時間以上さらに短くなると、リスクは56%も高まるという結果も出ています。
つまり、睡眠時間は「短すぎず、長すぎず」が理想的であり、7時間前後の睡眠が認知症リスク低減に最も効果的と言えるでしょう。日本人は他国と比べて睡眠時間が短いことが知られていますが、単に長く寝ればよいというわけではなく、質の高い睡眠を適切な時間取ることが大切なのです。
質の高い睡眠とは? - レム睡眠とノンレム睡眠の重要性
それでは質の高い睡眠とはどういうことを言うのでしょう。私たちの睡眠は大きく分けて「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類があります。「レム睡眠」は、眠っていても目が急速に動く時期で、脳が活発に活動している状態です。この時期には夢を見ることが多く、目が覚めやすい浅い睡眠状態にあります。一方「ノンレム睡眠」は、脳と身体の両方がしっかりと休息する深い睡眠の段階です。質の高い睡眠とは、ノンレム睡眠とレム睡眠のバランスが取れていて、深い眠りを得られる状態です。理想的な睡眠は、ノンレム睡眠が80%、レム睡眠が20%くらいの割合で、90分周期で交互に繰り返されることです。この2つの睡眠状態が夜間に何度も繰り返されることで、脳の回復や記憶の定着、感情の処理、そして脳内の老廃物の除去といった重要な機能が果たされています。
私たちが起きている間、神経細胞は「アデノシン」という物質を生成します。これは一種の老廃物であり、睡眠中にこれらが除去されます。適切な睡眠がないと、この老廃物の除去が不完全になり、脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があるのです。
質の高い睡眠を得るためには、規則正しい睡眠スケジュールを維持し、寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を控え、寝室の環境(温度、光、音)を整えることが大切です。また、日中の適度な運動や、カフェインの摂取を午後以降は控えることも効果的です。
睡眠障害と認知症 - リスクを減らすための対策
睡眠障害も認知症リスクと密接に関連していることが研究で明らかになっています。代表的なものに不眠症と睡眠時無呼吸症候群があります。
不眠症は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などによって、十分な睡眠を得ることが難しい状態を指します。入眠障害は認知症のリスクを高める可能性があると示唆されています。不眠症の原因はさまざまで、ストレスや不規則な生活習慣、身体的な疾患など多岐にわたります。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に一時的に呼吸が止まる状態で、いびきや突然の覚醒、頭痛や日中の眠気などの症状が現れることがあります。睡眠時無呼吸症候群が脳の容積減少を引き起こし、記憶力低下と関係している可能性があることが示されています。また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が脳の白質病変増加(画像の異常)と関連しており、認知症と脳卒中のリスク増加に寄与する可能性もあります。
当院では、睡眠時無呼吸症候群の検査および治療が可能です。いびきをよくかく、睡眠途中で目が覚める、日中の過度な眠気があるなどの場合はご相談ください。
まとめ
今回は睡眠と認知症の関係、そして40代から始められる予防習慣についてお話ししました。健康は日々の小さな選択の積み重ねで作られます。今日から少しずつでも、認知症予防につながる生活習慣を取り入れてみませんか?当クリニックでは、皆さまの健康づくりをサポートしてまいりますので、お気軽にご相談ください。