【院長ブログ】5年ごとの再接種が不要に!新しい肺炎球菌ワクチン『キャップバックス®』で生涯の肺炎予防を
朝夕の冷え込みが感じられる季節となり、いよいよ本格的な冬の足音が聞こえてまいりました。この時期になりますと、患者さんやご家族から「ニューモバックス®を5年ごとに打たないといけないのですか?」といったご質問を多くいただいております。そんな中、2025年10月29日に新しい肺炎球菌ワクチン「キャップバックス®」が発売されました。今回は、この最新ワクチンについて、従来のニューモバックス®との違いや、既に接種済みの方への追加接種についても詳しくご説明いたします。
肺炎という病気~高齢者の命を脅かす感染症~
肺炎は、多くの方が思われているよりもはるかに深刻な病気です。厚生労働省の令和6年(2024年)人口動態統計によりますと、肺炎は日本人の死因の第5位(4.8%)を占めており、誤嚥性肺炎も第6位(3.8%)となっています。さらに重要なことは、肺炎による死亡者の約97-98%が65歳以上の高齢者であるという事実です。
パーキンソン病や脳卒中後遺症などの神経疾患をお持ちの方は、嚥下機能の低下により誤嚥性肺炎のリスクが特に高いため、神経疾患の患者さんには肺炎予防を重要な優先課題として位置づけ、積極的にワクチン接種をお勧めしております。
肺炎の原因菌の中でも、肺炎球菌は成人の市中肺炎(病院外で発症する肺炎)の原因として最も多く、全体の約3割を占めています。この肺炎球菌による感染症を予防するために開発されたのが肺炎球菌ワクチンですが、これまでは定期的な再接種が必要でした。しかし、新しいキャップバックス®の登場により、この状況が大きく変わろうとしています。
キャップバックス®:成人に特化した肺炎球菌ワクチン
キャップバックス®(CAPVAXIVE®)は、MSD株式会社が開発・製造販売する21価肺炎球菌結合型ワクチンです。最も画期的な特徴は、「成人に特化して開発」された肺炎球菌ワクチンであるということです。従来のワクチンが小児用を成人に応用したものであったのに対し、キャップバックス®は成人の感染症データを分析して設計されました。
その成果として、日本成人の侵襲性肺炎球菌感染症の80.3%をカバーする優れた予防効果を実現しています。これは、従来のニューモバックス®の実質的なカバー率約56%と比較して、大幅な向上といえます。21という数字は、ワクチンに含まれる肺炎球菌の血清型の種類を表しており、成人の重篤な感染症を引き起こしやすい血清型が選ばれています。
さらに重要な特徴が、結合型ワクチンであることです。結合型ワクチンは、多糖体(細菌の表面成分)をタンパク質と結合させることで、免疫記憶細胞の形成を促し、終生免疫に近い長期持続効果を得ることができます。接種対象は50歳以上の成人で、特に65歳以上の高齢者や、心疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、腎臓病などの基礎疾患をお持ちの方、免疫抑制状態にある方に強く推奨されています。
ニューモバックス®とキャップバックス®の違い:再接種とカバー率
従来のニューモバックス®は23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(PPSV23)と呼ばれ、23種類の血清型をカバーする多糖体ワクチンです。しかし、多糖体ワクチンは免疫記憶細胞を十分に形成できないため、免疫効果が約5年で減弱し、5年ごとの再接種が必要でした。多くの患者さんが「いつ打ったか忘れてしまう」「5年後を覚えているか不安」とおっしゃるのも無理はありません。
一方、キャップバックス®は結合型ワクチンであるため、基本的に再接種は不要です。一度接種すれば、免疫記憶細胞が長期間にわたって肺炎球菌を記憶し続け、感染時には迅速で強力な免疫応答を示します。これにより、「5年ごとの再接種」という負担から解放されることになります。
2025年9月に開催された日本呼吸器学会等の専門家委員会では、「既にニューモバックス®を接種された方でも、その後にキャップバックス®を接種すれば、以後のニューモバックス®の5年ごとの再接種は不要」という方針が示されました。
ニューモバックス®接種済み、接種予定の方へのキャップバックス®:追加接種をお勧め
「もうニューモバックス®を打ったから大丈夫」とお考えの方も多いかもしれませんが、実はそうではありません。ニューモバックス®接種後1年以上経過していれば、キャップバックス®の追加接種が可能であり、これにより飛躍的に高いカバー率と長期効果を得ることができます。これから肺炎球菌ワクチンを打つ方は、65歳時にニューモバックス®を接種され、その1年後以降にキャップバックス®を接種することもお勧めです。
特に、神経疾患、慢性呼吸器疾患、心疾患、糖尿病、腎臓病などの基礎疾患をお持ちの方や、ステロイド薬や抗がん剤などで免疫抑制状態にある方には、この追加接種を強く推奨いたします。これらの方々は肺炎に罹患した際の重症化リスクが高いため、より確実で長期的な予防効果が特に重要になるからです。
気になる副反応についてですが、臨床試験では注射部位の疼痛が36%、疲労や頭痛がそれぞれ10%以上の方に認められましたが、いずれも軽度で通常1~2日で自然に軽快します。安全性プロファイルは既存のワクチンと同様に良好であることが確認されており、重篤な副反応の報告はほとんどありません。接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保っていただければ、通常の日常生活に支障はありません。
当院でのキャップバックス®接種について:接種予約受付中
うめもとクリニックでは、2025年11月よりキャップバックス®の接種受付を開始しております。現在のところ定期接種の対象外のため自費接種となりますが、費用は13,200円です。接種は完全予約制とさせていただいており、お電話またはクリニック受付にてご予約をお取りいただけます。
接種対象は50歳以上の成人の方ですが、特に65歳以上の高齢者や基礎疾患をお持ちの方には積極的にお勧めいたします。脳神経内科医として、神経疾患の治療を受けておられる患者さんには特に接種をお勧めしており、パーキンソン病、脳卒中後遺症、認知症などで嚥下機能に不安のある方には、診察時に個別にご相談させていただいております。
また、これからの季節はインフルエンザワクチンとの同時接種についてもご相談いただけます。両ワクチンの同時接種は可能で、別々の部位に接種することで互いの効果を損なうことなく、より包括的な感染症予防が可能になります。ご不明な点やご心配なことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
まとめ
肺炎は「風邪をこじらせただけ」ではなく、生命に関わる重篤な感染症です。しかし、適切な予防により防ぐことができる病気でもあります。一緒に肺炎から身を守り、健やかで安心な冬をお過ごしいただきましょう。ご質問やご相談がございましたら、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
引用文献
- MSD株式会社「キャップバックス®製品情報」2025年
- 日本呼吸器学会「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」2025年
- 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
- 国立感染症研究所「成人用肺炎球菌ワクチンファクトシート」2024年
- 日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2024」
- 日本感染症学会「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」2025年
